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触って、七瀬。ー青い冬ー

第19章 夢色の雨







「起立、礼、ありがとうございましたー」


鐘が鳴ると同時に、三刀屋慎二は大きく息を吸って叫んだ。



「あと一週間で夏休みだー!」

「わぁあああーーー!!」


教室中が一気に賑やかになった。

それが伝染したのか、他のクラスも浮き足立った雰囲気に染まっていった。



「…はあ」

溜息をついたのは、高梨伊織。
もう高校3年生の夏になっていた。


「おーい!たーかーなーしー!!」


三刀屋慎二は、教室の外から走ってきて廊下中に響き渡るように叫んだ。

そして、高梨の机にドン、と両手をついた。

「おい!」


「…んだよ」

高梨伊織は不機嫌そうに言った。
その目つきと言ったらまるで殺人鬼だ。


「夏休みだよ!な、つ、や、す、み!!」

「だから何だよ」

流石の三刀屋慎二も、その険しい表情と態度には尻込みした。

「だからって…休みだぞ!?休み!
なんか予定立てようぜ!パーッと!
まあ、大会はあるけど…ちょっとくらい空いてる日あんだろ?な!」

三刀屋はめげずにまくし立てるが、高梨は椅子から立ち上がって鞄を持った。


「ねぇよ」

高梨はこの夏までにさらに伸びた185の身長を惜しげもなく見せつけるように頭一つ下の三刀屋を見下ろしながら、低い声で言った。

ひっ、と三刀屋は青ざめた。
高梨は三刀屋の横をすり抜けて教室を去った。

「あっ、おい!高梨ー!」


高梨伊織は、もう親しみやすい人気者ではなくなっていた。

とは言え、その見かけの良さは健在だった。

しかし、少し目つきが悪くなった上に高身長に磨きがかかったので、なにかと怖がられることは多くなった。

視線や歓声を浴びたり、他人から物珍しく思われるのには慣れていたはずだったが、最近はやたらそれが鼻に付く。


自分が他人の視線に敏感になったのか…


「…あー、うぜえ」


口をついて出るのはいつもこれだ。
何をしても何を見ても腹が立つ。

もちろんその理由は明確なのだが、
何せそれを解決する方法などどこにもないのだから
どうしようもない。


「きゃあっ!」




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