触って、七瀬。ー青い冬ー
第4章 仮面の家族
「ただいま…」
やたら広い玄関で、僕は呟いた。
いつものように、真っ暗だ。
電気をつけると、寂しさが倍増する。
高梨の突然の謝罪の後、
僕はまた中学時代を思い出した。
その記憶にはいつも香田がつきまとった。
高校になっても、まだあいつと顔を合わせることがあるとは予想もしなかった。
香田が僕をいじめたのは、あの日、香田が謝った日が最後だった。
といっても、それは中学三年生の冬の日のことだから、高校入学を機になくなったのだといっても変わりはない。
「今日の夕飯は…」
【今日の夕飯はこちらです。レンジで加熱してからお召し上がりください。】
家事を依頼している業者の佐々木さんが書いた綺麗な字だ。夕食はこんな風に用意してもらっている。朝食や昼食は小遣いで買う。
この夕食は、母のかすかな気遣いなのだろうか。いや、考えすぎだ。
今日は味噌汁に白米、焼き魚など、定食のような組み合わせだ。
「いただきます」
僕は奴が言った通り、僕は男を好きになった。
でも、それは悪いことなのだろうか。
うん、悪いことなんだろう。香田や、
荒井先生や、…両親にとっては。
「帰ってたのか」
背中で声がした。
僕は箸を置いた
「…ごちそうさまでした」
立ち上がって部屋へ戻ろうとする。
「夕紀、座りなさい」
これは父親だった。
それでも僕は、どうしてもそう思えなかった。思いたくなかった。
僕は俯いたまま席に戻った。
「今日、学校はどうだった」
父は僕のことを常に監視しているみたいだった。実際にはそうではなくても、常に見られているような気がする。
「…いつも通りです」
「最近成績が悪くなったらしいな。
塾も行っていないんだって?」
「はい。でも次のテストではもっと良い点を取れると思います」
「もし今よりも成績が悪くなったら、
学校はやめさせる」
僕は驚いて顔を上げた。
「どうしてですか」
「学校は勉強をするところだ。もしお前が勉強をしないというなら、行く必要がないからだ。もし学校をやめた時は、葉山先生の教室で働きなさい」
「そんな…」
「葉山先生はお前を可愛がってくれていただろう。もしお前が困ったら、いつでも雇ってくれるそうだ」
「葉山さんのところには行きたくありません」