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触って、七瀬。ー青い冬ー

第20章 歪形の愛執


それは、七瀬が人に自分のことを曝け出したくなくて人と話すことすら気が進まないようなところがあって

俺は逆にどんな人間ともかなり距離を近くとってしまって、踏み込んでいこうとするところがあったから

こんな正反対の俺達には何かしら共通点がなければ
到底理解し合えることなんて無かったからです。

今も、お互いに理解できないことは沢山あります。

人間同士だから、理解できないことがあって当然なのにそれがとても苦しくて辛い時もありました。

だからこそそれを乗り越えて俺達は
こんなに大切な友情を深めてこられたんだと思います」



高梨は僕を見ていた

あれ、どうして僕達はこうして向き合っているんだろう


なぜ隣に座っていないんだろう

いつもみたいに窓際に

つまらない現代文の授業を聞き流しながら



「だから最後に、七瀬君が一人の運命の愛する女性を見つけたことに心から喜び、嬉しく思っていることを伝えたいと思います」


どうしてそんなこと

何で


高梨は僕の気持ちをわかってくれないの


本当に全部

君が僕にしてくれたこと、教えてくれたこと全部は

僕達が友達だったからなの


僕は運命の相手なんてまだ見つけてないよ


高梨みたいなバカな奴はきっと運命とは違うんだけど

それにしても運命の相手なんてきっと一生現れないよ



「これは俺が、一番大切にしている曲です

…この曲を弾くのはこれが最後になります

さようなら」



月の光など見えなかった



高梨がその曲の二度目のソのシャープを引いた時

僕は色々な出来事を思い出した


高梨がピアノを弾く手を思い出した


その手は僕の首に触れた耳に触れた

頭を撫でた

ボタンを外した


手首を掴んだ

唇に触れた


腰や背中を撫でた


僕の醜い奥の奥まで手探りで割り込んで


知られたくない場所まで探り当てて

心まで掻き乱した


そんな柔らかな感触やしなやかな動きに
心を締め付けられた

きっと明日にはこの手が違う誰かに触れて

僕以外の誰かを幸せにする



さようなら、と告げられて

一体何故かもわからなくて


苦し紛れに唇を噛んで耐えようとした


勝手に押し付けられた浅はかな行為と好意

勝手に引き剥がされた僕の気持ちと
一人でもがいていただけの愚かな苦しみ


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