触って、七瀬。ー青い冬ー
第20章 歪形の愛執
冗談が過ぎましたね。決して悪意があったわけではありません。ご勘弁願います」
男達はまだ戦闘態勢を崩さないが、高梨の周りに近づく者はもうなかった。
「では…」
ぷるるる
ぷるるるる
着信音
「…失礼」
高梨はポケットに手を突っ込んだ
「な…」
この状況下、電話を取った高梨に驚いたのは僕だけではないはずで
というか僕はむしろそんなに身勝手で物怖じしない振る舞いに呆れ半分でも憧れてしまったりしている
「ん?…ああ、今七瀬のとこ。
はあ?そんなもん自分でいけよ…」
一体誰と話しているのか
僕にはもう予測すらできない
だってこの数ヶ月間で僕達はあまりに離れてしまっていたし高梨の周りはいつも海の中みたいに潮の流れが変わっていくから
僕みたいな海底の静かな場所に沈んでいる石とはまるで違うから
「…んー、…善処する」
高梨が苦い表情で通話を切った
「…大変申し訳ありませんが、急用ができました。
私はここで失礼させていただきます。では」
ありがとう、と言って高梨はマイクを隣に立っていたボーイに渡した。
「ああ、そうだった」
ぽつり、呟いてボーイからまたマイクを奪った。
「今日私がここに来た目的をまだ果たせていませんでした。あと少しだけお付き合いください」
高梨は本当に、計画やシナリオといったものをろくに考えないで行動しているんではないだろうか
思いつき、思いつきで
だけどその一つ一つがしっかり次に繋がっていく
その不安定な劇を見せられ、巻き込まれる僕にしたらたまったものじゃないのに
高梨は足早に僕達のステージの向かい側にある、
タワーのように立った高いステージに向かった
そのステージにはグランドピアノがちょうど収まっていた
まるでグランドピアノだけを置くためのステージだった
高梨はタワーに巻きついている階段を上っていった
スポットライトと一緒にステージの頂上へ着き、
ピアノの前に座った
ピアノにはマイクが備え付けられていた
それを少し高くして口元に当てた
「私はピアノを弾いてきました。
小さい頃からです。
七瀬も同じで、小さい頃からよく練習してきた者同士です。その共通点が無かったら俺達は、きっとこんなところまで付き合っては来られなかったと思います。