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触って、七瀬。ー青い冬ー

第20章 歪形の愛執



君にとっては一つのフェーズ

多分、序論

とりあえず生

まずは一杯

ちょいと一服

暇の一息

束の間の休息

長いアルペジオの間の一休符


そんな、箸休め程度の存在が僕


どれだけ気があるように見えてもそれは演技

演技じゃなくても社交辞令

社交辞令じゃなければお愛想

つまり一種のコミュニケーション


どんな触れ合いも挨拶がわり


好きも嫌いもない


全部遊びだったんだろう


そうじゃなければ逆にこんな仕打ちって



高梨は月の光を弾いていた
僕は席を立った


「夕紀君」


「…耐えられないよ」


それが僕の正直な気持ち


さようならなんて言われる筋合いはない

なんのつもりだか知らないが

もう何も聞きたくない


ステージから降りると涼しかった


スポットライトはまだ高梨に当たっていて
誰も僕が居なくなったことには気がつかないだろう


ステージの裏から外へ出た


テラスに出ても月は見えなかった


少し肌寒い

もう夏が終わってしまった


「旦那様?」



まばらな拍手が聞こえた

高梨がきっと演奏を終えたんだろう


「…一人にしてください」


桃屋は僕の動向をいつも把握している

こんな時に抜け出しても見逃してはくれない


「一体彼と何があったんです?」

「…気分が悪いんです。その話はやめてください」


桃屋は何も言わずに僕の顔色を伺っていた


高梨について聞かれることは今までも何度かあった。その度に頭痛と吐き気とめまいで、話をするどころではなくなったし実際、何が今まで起こったのかなんて説明できない。

僕だって何が起こっていたのかわからないのだから

桃屋がいつもよりも大人しく、ただ黙っている

いつものように脅すような態度もない

今日は何もかもが違う気がした


こんなに最低な日も、いつかは思い出に代わってくれるのだろうか


「高梨は…僕の命の恩人です」



友人、という言葉では表しきれない

表したくないのかもしれない

高梨は僕達の関係を友情だったと言って

こんなところに僕を置いていったあげく

今度はお祝いだとか言ってピアノまで弾いて

僕に別れを告げに来た


「だけどあいつ、僕のことを苦しめるばっかりで
なんかもう…どうしたいのか」

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