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触って、七瀬。ー青い冬ー

第20章 歪形の愛執



僕よりも、教室のみんなの方が驚いていた

それまで静かだった教室が控えめなどよめきを見せる


「上手くいきそうなんだ、今度は」


今度は…


別に、聞いてない


「八霧先生、いい人だよ。
教育熱心だし、面倒見良いし。
七瀬のことも随分気にしてたから」


それは、よくわかってる

昨日会って、良い人なんだろうとは


「はい、席つけー」


今日の1時間目は、現代文

先生が教科書を開く

「今日からは、舞姫だな。
じゃあ音読からー」


高梨が顔を寄せる
耳元で言う


「相性もいいんだ、色々」



色々…



八霧先生がベッドに寝ていた
汗で髪が額に張り付いて

高梨がその上に乗る

二人がキスをして…

高梨が先生の名前を呼ぶ

先生は熱い息を吐く


「八霧先生、ああ見えてド変態なんだよ」




【もっと…】



見てもいない行為の光景が
頭の中で再生される

まざまざと見せつけられているみたいに

頭の中で大音量で


濡れる音と声がこだまする


「っ…」


何故

動悸がするんだ


「あ…」


高梨が手を伸ばした、僕に


手が、やっぱり綺麗だった

長い指が、細い指先が


その手が僕の髪の毛先にふれた


「髪切った」


ガタン


「七瀬?どうした」

先生が僕を見ている


立ち上がっていた

高梨の手を叩いて


「あ…あの」


どうしよう、逃げたい


「保健室に、行きます」


…言えた


「おう、わかった。気をつけてな」


僕は早足で教室を出た


…どうしたらいいのかわからない


あれが、いつもの高梨

今までは僕がその隣にいることを認められていた

でも今はその隣にいていいのは僕じゃない

だから当然、あの隣に座っている僕には
それなりの待遇が待ち受けているわけで

あんな風に僕には何の関係もないはず世間話も
御構い無しに聞かされる

だって僕は蚊帳の外の人間だから

高梨がどんな関係を誰と持っていたって
気にしないはずだから

「いらっしゃい」

保健室の真山先生が僕を迎えた

「あれ、どうしたのかな?」

どうもしない

頭がいたい

「…1時間、寝かせてください」

一刻も早く横になりたい

「はいよ、どうぞ」


先生がカーテンを開けてベッドの用意をしてくれる

そこに有り難く横になった

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