触って、七瀬。ー青い冬ー
第20章 歪形の愛執
雑誌の仕事が忙しかったわけでもなく、
ただ色々な事件の後で学校どころではなかった。
確かに、こうして落ち着けた今は
もう学校を休む理由はない
「…はい、すみません。出来るだけ出席はします」
なんて言ってしまうけど
「本当に?よかった!それじゃあ月曜日、待ってるからね」
本当に、困るなあ
こういう自分は
……
「いってらっしゃいませ」
「…うん」
校門の前で車を降ろされた僕は、
やはり重い鉛を心に溜めていた
俯いて歩くけど、人の目を気にする癖は変わらない
ヒソヒソと話す声もするし、
嫌な視線が僕の背中をどんどん曲げていく
動悸に襲われながら、
茨の道を抜けながら
教室に足を踏み入れた
「…お、はよ…」
僕の一言で、気持ちがいいほど教室は静かになった
時計の秒針の音が響くほどの静寂
視線は抜け目なく僕に向けられていて
震える足で僕の席に腰を下ろした
なんでみんな、まだ僕を見てんだよ
始業前ギリギリを狙ってきたはずが、
まだ3分も残っていた
「おはよ」
隣から声がする
なんでこういうところで普通に挨拶ができるんだろう
みんなが黙って僕を見ている理由はよくわからないけど、きっとどう接すればいいのかわからないんだろうって予想はつく
だけどこいつときたら、何食わぬ顔で
みんなが見ていても御構い無しだ
その上、昨日のカップルコンテストで
名目上、僕は高梨と出場しなかったわけだから
そして今は、あの教育実習生と噂になっているんだから
僕にそんな風に話しかけたら、みんなの大好きなゴシップになりそうなものを
…そっとしておくってことを知らないのか
高梨は頬杖をついて僕の顔を見ている
けど僕は俯いたまま
「朝、執事さんに送ってもらったの?いい車だね」
教室が少しノイズを増やす
僕のことを見世物としか思っていない奴らからしたら、きっといいご身分だとか思われるんじゃないか
「昨日の文化祭は楽しめた?」
なわけ、あるか
「コンテスト、俺ら優勝だったの知ってる?」
…知らない
「最後に表彰されてさ、
クラスに景品貰ったんだよ」
へえ…どうでもいいけど
「それで、正式に付き合うことにした」
え?
「八霧先生と俺」
…ああ、そう