触って、七瀬。ー青い冬ー
第20章 歪形の愛執
痛い
…考えるな、何も
痛いよ
…気のせいだから
【それはお願いですか?】
違う…気のせいだから
痛い
【口、】
飴…ください
今
「痛い…!」
違う
欲しくない
何もいらない
痛い
【死ぬか、今】
死にたくない、死にたくないけど
死んだ方がきっとましだ
痛い
「う…ああ!」
ポケットを探った
何もない
何もない…!
痛い
そうだ、飴を貰っておくのを忘れてた
「ああっ!」
なんという失態
こんな頭痛にいつまで耐えられるだろう
いっそ早く気を失えたらいい
消えてしまえ、意識も
「はぁっ、ああっ!」
痛い…痛い…!
カーテンが開く
「七瀬君!大丈夫か!」
「助け…て…」
先生
「先生…お願いだから…」
飴でもなんでも
構わないから
「助けて…」
「失礼します」
「高梨君、悪いね呼び出して。
あ、八霧先生まで来ていただいたんですね?
すみません」
「いえ、お構いなく」
「七瀬君が突然酷い頭痛を起こしたみたいで、
一時は叫ぶくらいになってたんだけど…
今は鎮痛剤でなんとか眠ってくれてるよ。
それで、七瀬君の家に連絡して引き取ってもらおうかと思ったんだけど連絡がつかなくてね。
高梨君なら彼の家も知ってるかと思って」
「わかりました。ありがとうございます」
「こちらこそ。じゃあ、悪いんだけど後は見ていてくれるかな?
今度の大会の引率者会議に呼ばれてるんだ」
「わかりました」
「じゃあよろしくね」
…
「い…」
痛い
けど、少しはましになったようだった
寝返りをうつと、カサ、と音がした
枕元に飴
見間違いかと思ったし、
ついに幻覚でも見るようになったかと思った
でもその飴は桃色のあの飴に間違いない
手を触れることもできる
迷わず口に入れ、その甘さに感謝した
…助かった…
寝ぼけ眼で家に帰ってきたかと思ったが、
まだ保健室だった
…桃屋が来たのか?
「…ダメだよ」
…誰かの声
「ん…なんで」
…と高梨
「あの子が起きるから」
「別に、いいんじゃない?」
「だって」
「…やりたくねえの?どっち、決めて」
「やる」
…もう、起きてるよ