触って、七瀬。ー青い冬ー
第20章 歪形の愛執
七瀬が飴玉から滲む甘い汁を喉仏を下に下げて飲み込んだ
俺を突き刺していた鋭い眼光が緩む
代わりに少し頰が赤らむ
一度口にしたら吐き出すことができない
麻薬のような甘い石
「答えは書いてきてやる」
俺は席を立って黒板に《有効需要》と書いた
俺に必要なのは購買力
溢れ出る体内の需要を満たす購買力
君の体を手に入れるための絶対的な力
「じゃあ答え合わせなー」
先生が言った
黒板の文字に丸がつけられていく
「っ…」
隣でカランカランとシャーペンの落ちる音がした
落としたのは七瀬だ
俺の足で留まったシャーペンを拾い上げる
七瀬は酷く汗をかいていた
秋口、体育の後だとしても尋常ではない
なにかの病気と疑われてもおかしくはない
本人は体の熱に浮かされないよう平静を装うのに必死だった
でも机の下では短パンの股の部分が大きく膨らんでいたし
腰が沿って背中が不自然に弓なりになっているし
ジャージの長袖で抑えた口元から湯気が出そうな程熱い息を繰り返しているし
耳が茹でられたみたいに真っ赤だった
これは発情した犬と全く相違ない
理性も全て崖の隅っこに追い詰められて
かろうじて片足が風に煽られながら
落ちないように耐えている
「ねえ、七瀬」
椅子を寄せて小声で囁く
「動かしてあげよっか」
手の中のリモコンを、誕生日ケーキでもお披露目するみたいに見せた
七瀬は口を開けて涎を垂らした
腰がぴくぴく揺れていた
「はっ…、あ…」
首を振っている