触って、七瀬。ー青い冬ー
第20章 歪形の愛執
「何で、嫌?」
答えはわかってるくせに
絶対自分から書きにはいかない
間違えてたら大恥だ、
馬鹿だって笑われる、
そんなの絶対に嫌だ
赤点を取るくらいならいっそ、
テストを放棄して0点になった方がマシで
偉いねっていうから
皆んなが、お勉強もピアノの練習も
がんばってて、えらいねって
「た…えらんな、い…こんな、」
えらいねっていうんだ
ふざんけんなふざけんなふざけんなよ
じゃあ何もしないなら
何もしなかったあいつらは
ぼくを、えらくないっていうんだ
つまりぼくはぜったいに
がんばらなきゃいけないっていう呪いをかけられた
ああ、最悪だ
そこらの馬鹿にはわからないだろ
例えば君とかさ
そうだよ
ぼくは頭が良いんだ
昔っから塾に通ってきたし習い事も続けた
全部親に言われたからだよ
そう、君が遊んでる間にさ
泣きながら、もう死んだ方がマシって思いながら
それでも死ぬなんて馬鹿みたいだから
仕方なくいきてきたんだよ
勝手にこんな家に生まれさせやがって
神さまなんていないんだ
いないくせに
こいつはいっつも教会で讃美歌なんか歌ってやがった
ああ本当に大嫌いだ高梨伊織なんて死んだら良い
そしたらぼくだってちょっとは楽になるのに
生きてくのに、
ああぼくはずっと昔、大好きで憧れていた人に
運良く隣の席になったってだけで話しかけてもらえて、運良くなんか、恋人ごっこみたいなこともして、キスもしてセックスもして、両想いかもなんて思って、もしかしたらこのままずっと一緒にいられて
このままずっと幸せにいられるかも?なんて
それで彼のベッドの上で朝起きて、
気づいたらお爺ちゃんになってるかもしれないな
なんて、ちょっとだけ考えたりしたけど
それも全部お遊びの一つだったんだよなあ
結局、「バイ」だなんて都合のいい設定をつくっておいてぼくを騙していたんだろうな
もともとバイだ、なんて言われなかったし
そもそも僕だってゲイだとは言ったけど
別に男だから惚れるわけじゃないし
ああだからつまり僕は捨てられたんだなあって
遊ばれて飽きたらゴミ箱へ、
さあ次の餌は?
そういう男に捕まったってだけで
別になんも、不思議なことじゃない
ありふれた話である
「…わかった、じゃあ動かさないでおくよ」
高梨がリモコンをスラックスのポッケにしまった