触って、七瀬。ー青い冬ー
第20章 歪形の愛執
…死、ぬ…
「おい、君達何してる!」
え、誰…?
「こら、撮るのをやめなさい、しまって!」
先生だ。
…今更、来られたって…
体が急激に冷えていくようだった
「高梨君は指導室に来なさい!」
先生が高梨の腕を掴んで強引に引っ張る
「おい、離せって、七瀬が」
かき氷を突然食べたみたいに
冷えた血液が体を巡って
頭が痛くなってきた
見失っていた目の前の視線にまた気がつく
みっともない、こんな姿を見せて
どこかに隠れたい、隠れなきゃ
「ご安心ください」
「…!お前」
桃屋が立っていた
なんで、どうして…
全部夢だったのか…?
だって、高梨と桃屋が教室にいるなんて変だし
…そうか、こんなの全部夢だったに決まっている
じゃなきゃ、おかしすぎて信じられない
桃屋がまるで役人か官僚のように見えた。
冷徹な仕事人、子供相手にも容赦がない
「旦那様は私が引き取ります。
あなたは大人しく捕まっていなさい」
高梨が上から桃屋を見下ろして威圧した
「…ああ?ぶん殴られにきたなら望み通りその鼻へし折ってやるけど」
確かに桃屋の鼻は折りがいのありそうな
ツンととがった鼻だった
桃屋は表情を崩さず、高梨の言葉は無かったことにして居直った
「先生、ご迷惑をおかけいたしました。
後はこちらが始末しますので」
「え、ええ。よろしくお願いします」
始末って、不気味な言葉に聞こえるのは気のせいか
「離せよ」
腕を引かれる高梨が唸り声をあげる
体の中に眠っていた狼が静かに月の光を浴びて目を覚まし始めるような
桃屋が哀れむように高梨を見て嗤う
そして僕の方を振り向いて近づき、
ジャージ姿でうずくまる僕に手を差し出した
「行きましょう、旦那様」
ピンク色の隠していたはずの髪が、少し顔を出していた
ああ、僕の手綱を握っているのはこの人だった
今度は、この人に手を引かれて歩いていく
引きずられていく
僕はそういう人生を選んだんだ
自分で何かを決めるなんて恐ろしい
だけど、こうして子供のようにいつまでも世話をされているのもなんだか惨めだった
高梨の遊びに引きずり回されるのも
「どうかしましたか?早く家に帰って着替えてしまいましょう。そうでないと風邪を引きますよ。
それにここは、人目が多いですから…」
手を取りかけた時、
「こらっ、うわっ!」