触って、七瀬。ー青い冬ー
第20章 歪形の愛執
ドン
鈍い音がして、廊下を見る
高橋が先生を殴って、先生が床に倒れている
悲鳴が上がって、僕は耳を痛めた
うん、多分…夢
高梨は赤くなった手の甲を抑えながら、
早足で教室に戻ってきた
「…暴力はいけませんね」
桃屋は高梨の前に立ち塞がった
「どけよそこ」
「いえ、あなたのような危険人物を彼に近づけるわけにはいきません」
「そうか、じゃああんたも殴る」
桃屋は口を押さえて嗤う
「本当に面白いことをおっしゃる方ですね。
しかし困ります。あなたのような野蛮な人間が当家の次期後継者と友好関係を持っていると、万が一勘違いされて噂でも立ってしまったら大きな風評被害を被ることになります。そのような根も葉もない噂が立つ前に彼に近づくのはご遠慮願います。
…と、以前にもお話ししたと存じますが」
桃屋は冷ややかにため息をついた
「俺が野蛮?ならあんたは俺よりもっと酷い残虐な大罪人だな」
「何をおっしゃっているのか皆目見当もつきませんね」
みんなが二人を見ていた
高梨は桃屋のしわひとつないシャツの襟を掴んだ
桃屋は表情を凍らせたままだった
「七瀬の動画、今すぐ消せ」
「なんのことです?あなたこそ、ここにいる全生徒に動画を撮らせていたでしょう」
「心配無用。ここにいる奴全員の携帯は回収する」
「は?嘘だろ、俺は撮ってない!」
一人が無罪を主張すると、高梨は黙って目の前にあった机を蹴って倒した
割れるような金属の音と
たった片足で一度蹴っただけの力で
倒れた複数の机と椅子は
絶対的な制圧力で反抗する者を弾圧した
「いいよ、君のスマホは回収しない」
高梨は、春風に似たさわやかな声色で言った
「だけどその代わり、
君にはここを退学してもらう」
穏やかで柔らかい笑顔だった
おとぎ話に出てくる無垢な少年と同じ
無邪気に笑っていた
「は…?頭おかしくなったのかよ高梨」
「いや、俺は真面目に話してる。
で、君は俺にそれを渡したくないってことでいいのかな?」
「そ、そりゃあ嫌に決まってる」
その生徒は声を上げた。
周りは怯えた様子で口をひき結んでいた
「わかった。それじゃあ君とはここでお別れだ」
「何言ってんのか全然理解できないんだけど」