触って、七瀬。ー青い冬ー
第21章 湖上の雫
どうして僕はそれを受け止められなかったんだろう
例え、不純な関係であったとしても
繋がっていられたなら
先生が死ぬことはなかったかもしれないのに
全部僕のせいだ
僕のせいだ
ここで、こんな目に合っているのも全部
僕のせいだ
熱い滴で顔が焼けるようだった
目の前にいるのが誰かも見えない
先生に会いたい
死んだら、会えますか?
「あぁ、っ…せん、せ…」
痛いです
もう、耐えられない…
ー先生が窓際に追い詰められている
ヤクザに追われて
銃を突きつけられながら僕に向かっている
あの時先生は叫んだ
【逃げるんだ】
僕は叫んだ
もう力に屈していてはいけない
例え銃を突きつけられても、指を折られても
泣いているだけじゃ、何も変わらない
「嫌だ!」
子供のように泣き叫べ
君を利用して、玩具にする奴らに叫べ
「大丈夫、大丈夫だよ」
みっともなく泣きじゃくりながらでもいい
声を上げて、逃げろ
「やめろ!嫌だ!」
僕は会議室の扉のドアノブに手を伸ばした
あと少し、もう少しで手が届く
「逃がさないよ」
僕の手は掴まれ、捻られる
「あ"あ"っ!」
今までに感じたことのない痛み
腕の感覚がなくなった
「逃げられると思ってるのかい?可哀想に、
ほら俺と繋がってよ…」
伸ばしかけた手は動かなかった
ドアノブから引き剥がされ、床に押し倒された
「七瀬君…やっと君を俺のものに…」
「っ…嫌だ…!」
ーガチャ
扉が開いた
真っ暗だった部屋に、光が差し込んできた
「平賀さん?…何やってんですか?」
助かった…
ありがとう、神様
「あ、ひ、紘」
救世主の名前は紘、ついさっき廊下ですれ違った
僕を睨んできた恐ろしく足の長いモデルだった
なんでこいつが?
随分僕を毛嫌いしてそうだと思ったのに
ただ、偶然見つけただけかもしれないけど
「今、ちょっと取り込み中で…」
「…」
平賀さんは突然仕事の顔に戻った
紘は静かに僕を見下ろしていた
「浮気、してたんですか」
…浮気。ということは紘と平賀さんが…
なるほど、被害者は僕だけじゃない
「いや、いや違う!これは七瀬君が」
「平賀さん、こないだ俺に約束してくれましたよね。平賀さんと付き合えば俺をドラマのオーディションに有利になるようにしてくれるって。