触って、七瀬。ー青い冬ー
第4章 仮面の家族
「その頃の僕にとっては有難い人でした」
葉山先生はピアノが上手で、怒ることなく、楽しさを優先してくれた。
でも、ある日からおかしなレッスンが始まった。
先生はよく、僕の手を取って教えてくれていたのだが、その手はだんだん僕の体を触るようになった。
最初はくすぐるような感じで、
僕はそれで笑って、単にじゃれているだけだった。
それが気づかないうちに、いけない方向に進んでいった。
先生は僕の家に来てレッスンをしていた。
家には両親がいることはほとんどなかったし、レッスンは休日で家政婦も来なかった。
先生は好き勝手することができた。
僕は幼くて、先生のしていることが何かわからなかった。
先生は何も言わなかった。
僕がピアノを弾いて座っている間、
先生は僕に触った。
僕は笑いながらピアノを弾いていた。
それは楽しいことだと思っていて、
くすぐるのと変わらないことだと思っていて、気持ちいいことを知って、
僕は一人でもするようになった。
それがおかしいことではないかと気づき始めたのは、僕が小学五年になって、
先生が触っている時に精液が初めて出た時だった。
先生は気づいていなかったみたいだけど、
その時に、これはただの遊びとは違うのだと分かった。
それから僕は先生と会うのが少し気まずく感じるようになった。
先生は僕が気づき始めたと勘付いたのか、
しばらく触ることをやめた。
父は葉山先生を過剰に信用している。
12歳の時も、今日のように、僕は疑いなくここに来たのだろう。
微かな記憶があるだけで、その日何が起こったのかは覚えていない。きっと、大きな出来事はなかったのだと思う。
さすがに、小学生に手を出す程の人はいなかったはずだ。
誰かがしているところを見てしまうくらいはあったかもしれない。
先生は僕に触ってはいたが、その先まではしなかったはずだ。
でも、先生はどうしてそんな子供をここに連れてきたのだろう…
先生のすることはわからない。
多分、この先も僕が分かることはない。
《夕紀君、いいこと教えてあげる》
「じゃあ、今日は2回目なんだ」
「らしいです」
「それから5年経って、君はとっくに成長して、今、ようやく本来の目的を果たせるわけか」
「果たさなくていいです。
そもそもあなたは女性の相手するのが仕事じゃないんですか」