触って、七瀬。ー青い冬ー
第4章 仮面の家族
ステージ裏には、ホテルのようにいくつも扉がある廊下が続いていた。
「あの…」
「君、未成年だろ」
その人は僕の手を引いて歩きながら言った。
「…すみません」
「別に怒ったわけじゃないよ。
でも危ないんじゃない?ここが何するところかわかってきてるんだよね」
その人は20代前半くらいだった。
「えっと…」
先生に名前を書かされて、よくわからないままここに居た。と言ってもいいのだろうか。
「まぁ、いいや。君が最高額だったんだ」
「あの、待ってください」
「ここでいい?」
その人は、一室の前で止まった。
「いいね」
扉を開け、僕は連れ込まれそうになる。
「ちょっと待ってください!」
「いいから入んなよ。最後までやんなくてもいいし」
「最後までって…」
「ほら黙って入れって」
僕は背中を押されて、部屋の中に入れられた。
ガチャ、と鍵が閉められた。
部屋の中には大きいベッドが一つだけ。
あとは何もない。
セックスするためだけの部屋だった。
「そんじゃ、どうしたい」
その人はネクタイを外してスーツを脱いだ。
「何もしなくていいです」
「はぁ?なんだそれ。あんだけ金払っといて何もしないはないだろ」
「だってくれって言うから」
「言ったけど…。
君さ、やる気ないなら本当になんでこんなとこ来たの」
「連れてこられて…」
「はぁー、そういうこと」
「え、今のでわかったんですか」
「結構いるんだよね、半強制的に連れてこられる人。パートナー寝取らせに来る人とか。」
「寝…とらせ?」
「寝取られて興奮する人がいるんだよ。
まあ、それも一つの楽しみ方だよな。
後は、開発のため?」
「開発?」
「君とか、そのためだと思うよ。
連れの人は?どういう関係?」
「…親戚」
「まじかよ」
顔をしかめられた。
「っていうか、習い事の、ピアノの先生で」
「男?」
「叔父です」
「そういう関係なの」
「すごく小さい頃からピアノを習っていて…」
『はじめまして。葉山です。
よろしくね、夕紀君』
葉山先生は優しかった。
僕を弟のように可愛がってくれた。
僕には兄弟がいなかったし、
両親は僕に無関心なくせに厳しかったし、
葉山先生は唯一、家族らしく接してくれた。
家族といっても、血は繋がっていないけれど。