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触って、七瀬。ー青い冬ー

第21章 湖上の雫



「俺、高い建物来ると絶対下覗く
ここなら死ねるかなって考えて
一番良い場所探してきた
ここは多分一番いいよ
飛び降りて死ねなくても道路だから轢き殺される
周りに歩道がないから歩行者が驚かない
車の方は大迷惑かもしれないけど
まあいいだろ、死んでるからこっちが罪悪感感じることはない
好きなだけ引いてもらおう
だけど死体処理は大変かもしれない
ぐちゃぐちゃで身元もわからなくなるかもしれないし
多分色んな人に迷惑かける
人生最大に騒がせる
それでも例によって俺らは死んでるから
気にすることはない

俺はあんたが死ぬのを止めない
むしろ仲間だと思ってる
電車に轢かれるのは怖いだろ
それに世間からのバッシングも酷いだろ
でも多分あれ、突発的に誘惑に負けて飛び込んじゃうんだと思う
計画してたら怖くてできないよ俺は
ある朝今日も死ぬ程苦しい思いしに出勤しようとしててホームで並んでたら
目の前に線路があった、
電車もくる、
もし飛び込めば仕事からも上司からも
同僚からも将来からも逃げられる

まるで天国

そして多分、彼らの周りの口癖は

死にたいなら死んでみろ、
どうせできないだろうけど

だから売られた喧嘩を買って
自分の命をかけてそいつらに教えるんだよ

俺は強い、てめえらみたいに怖がりじゃない
てめえらに復讐するためなら命も投げ出せる
一生あんたらの人生に消えないシミつけてやる
朝も昼間も夜も俺のこと思い出して
後悔させてやる、罪悪感で苦しめてやる

ついでに他の通勤中の奴らにも教えてやる
あんたらは別に働いてまで生きる必要はない
働きたくないなら死ねば一発
死ぬ勇気を与えてやれる

死ぬことは悪いことじゃない、七瀬夕紀

人は生まれたら死ぬ
死ぬ時期がいつだろうと変わらない
あんたは生まれて死んだ
その期間が短くても長くても
地球は46億年生きてる
宇宙は138億年生きてんだ
どんだけ頑張っても勝てない、安心しな

死にたいと泣くのは良いことだ
誰も生きたいと泣く人を責めない
なんで死にたいと泣く人は叱られる
生きるも死ぬもあんたの命
拾おうが捨てようが勝手だ

親の気持ち?知るか気にするな
あんたの親もいつか死ぬんだ
子供は大抵親の死を見せつけられる
それが責められないのに
子供が死を見せつけて悪いかよ
悲しむだろう苦しむだろう
だけどそれが命だよ

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