触って、七瀬。ー青い冬ー
第21章 湖上の雫
一緒に死のう、七瀬夕紀
明日が来るのが恐ろしいなら
朝があんたを絶望させるなら
朝日が憎くて夜しか生きられないなら
でも俺はあんたが死ぬのを勿体ないとも思う
俺は一度も親に従わなかった
でもあんたは少しは頑張ってた
世間の言ういい子になろうとして
でもいい子って言われて喜んでるようじゃ
あんた一生苦しむ
大人になる程いい大人と褒められることはなくなる
可愛がられることもなくなる
歳を取ると世話をしてくれる人も消える
結婚したら子供もできる
そうしたら今度は世話をする側になる
面倒だ、俺はそんなの絶対にやりたくない
子供のために自分の時間を割くなんてバカらしい
あんたの親もそういう人間のくせに
都合のいいように立場使って躾する
いい子ってのは都合のいい子だ
面倒かからなくて勝手に挨拶覚えて
言うこと聞いて騒がず大人に育つ
めちゃくちゃ楽だ
だから俺はいい子が大好きだけど
いい子は可哀想だ
生んでくれてありがとうって言うんだ
頼んだ覚えもないのに偉いよ
そして遺伝子と本能に洗脳されて
生殖して繁殖して子供つくって
自分もいい親になるんだ
俺も洗脳されてればよかった
確かに性欲だけは有り余るほどあった
あんたですらヤれる
けどどうしても無理だったな
誰かと手を繋いでそれでハッピーとか
理解できないわけじゃない
でもだから何だって考える
幸せだけが正解か
幸せじゃないと生きてちゃいけないか
不幸者は哀れまれて笑われる
でも不幸ってなんだ
他人が決めることか
あんたが決めることか
幸せも不幸せもあるかないか分からない
あるのは自分の感情だけ
嬉しいと楽しいと幸せは同義か
悲しいと苦しいと辛いと不幸は同義か
肯定も否定もできない
なぜならそれは相対的だから
状況と条件によって変わるから
水みたいに変わるんだ
だけど形は決まらない
本人が触れることでしか存在を証明できない
透明なものが有ると証明するのは難しい
あるかもないかもわからないもので
人生の価値を決めるのか
あんたは愛されない、一緒に苦しんでくれる人がいないから不幸せなのか
不幸な人生に意味はないのか
不幸な人生を生きるために苦しむことはただの徒労なのか
俺にはわからない
無意味なことを繰り返す人生は無意味なのか
無意味だと存在価値がないのか
無意味かどうかは誰が決めるのか