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触って、七瀬。ー青い冬ー

第21章 湖上の雫


「僕も、紘さんに会えて良かった」

彼の母国の名前はもう忘れてしまった
それでも気に留めなかったのは
名前が何であろうと親が誰であろうと
血が繋がっていようと
同じ人だったから

「死のうか。気が向けば、だけど」

紘が言うと風が吹いて、さらさらの金色に染まった髪の毛が夜の星空になびいた

もし血が流れて心臓が止まってしまえば、
この髪の輝きも消えてしまうのだと思った

虚に車の往来を追う瞳にも光は反射する
潤った瞳は生きている

その息の根を自ら止めてしまうのは惜しい
僕がその目を持っていれば
その体を持っていれば
きっとモデルという仕事がもっと良くこなせたかもしれない
なんて思うほど綺麗だ


「…僕たち、一応兄弟、ですよね」

「そうとも言うんじゃない
知らないけど」


僕には別の家族が本当にいた
心のどこかで願っていたことが事実になっていた

もし偶然出会った誰かと繋がり続けるのが不可能なら、血縁という呪いで縛られることでしか絶対的な繋がりは得られない

だから家族が自分を理解してくれないのは大変
都合が悪い

でも紘はきっと理解はせずとも隣にはいてくれる人だ

「今日は気が向かないので、やめます」

「そりゃ、残念」

紘は道路を見て口の端で笑った

「僕の方が年下ですよね」

「さあ」

「じゃあ紘兄さん」

「何だそれ、嫌だ」

「兄ちゃん、兄さん」

「気持ち悪いな。帰るよ」

紘は階段を降りてしまう
僕もいつの間にかそれに続いて階段を駆け下りていた

「ロシア語で兄は?」

紘が言った言葉を聞き返すと、違う違うと言って結局何か分からなかった

「ブラー?」

「もうなんでもいい、寝なよ」

風呂から上がったら少し寒かった
紘のベッドに潜り込んでも怒られなかったので
とても嬉しかった

「あんた、多分冷え性だよ」

「あんたって呼ぶのやめません?」

「じゃあ、お前」

「そうじゃなくて…名前で呼んでください」

「そう言うなら、敬語もやめな」

「う、ん…?」

紘は目を閉じた

「おやすみ、七瀬」

「…それは、名字」

それきり、返事はなくなった








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