触って、七瀬。ー青い冬ー
第22章 白銀の砂
「…どこのどなたです?そちらの青年は」
家…白鷺家に戻ると、部屋で桃屋が煙たそうな顔で僕らを迎えた
「こちらは、モデル仲間の紘さんで」
「このおっさん雑誌とか読む?」
桃屋は紘の発言を気に留めず夕紀に問い詰めた
「…名前を聞いているのではありません。
そちらの方はどのようなご用件で連れていらしたんです?事前にご連絡をくださらないと…いえ、準備は常に万全ですが
いくら仲のいいご友人でも簡単に信用してはいけませんよ。
昨晩の夜遊びに限らず朝帰りとは…呆れてお話になりませんが」
遠回しに不審者だ、と言われた紘は鼻で笑いながら口を挟んだ
「うわ、今時本当に執事みたいな格好してる。
その手袋邪魔じゃない?」
「はい、使用人ですので。これは飾りではありませんので邪魔、などとは微塵も」
「へー凄いね。あんたのプロ意識に脱帽だけど
残念ながらこの人俺の家に住むから」
「はっ、はい!?」
「…当人が知らされていないようですが?
同意のない約束は無いものと等しいかと」
「聞いてないで…聞いてない!どうしたんですかっていうか、大丈夫ですか紘さん」
「あれ、俺のこと兄さんって呼んでくれるんじゃなかった?敬語もやめなって」
「へ?だってそれは紘さんが嫌だって言ったから」
「七瀬がそう呼びたいなら好きに呼びなよ」
「だからそれは名字です!」
「でも日本じゃ名前が先で…あれ、逆?」
「えーそれ本気で言ってます?」
ごほん、と大きな咳払いが間に割って入った
「旦那様、少々お話が」
「あ、ああ、はい」
桃屋が夕紀に説教まじりで青年の情報を収集する間、当の青年は窓際の椅子に腰掛けて居眠りを始めた。
…
「…もしもし、あ、俺、伊織」
「…」
「…まだ声出せないか。
ごめん勝手に番号調べて。
だけどどうしても言っておかないと俺が満足できなかったから」
「…」
「この間の夜はごめん、なさい。酒はもう、本当にやめておく。誤解しないでほしいんだけど酔ったら誰でも手出すとかじゃないから、…本当。酔ったら本心が隠せなくなるだけ…。って言い訳だね」
「…」
「俺、あの店やめるよ。あとこの際言うけど俺未成年だし、多分君もだよね。俺はこれ以上人を騙しながら生きていくのはもう無理だ。高校も辞めた。
君に会って、本当に一緒にいたいと思ったから」