触って、七瀬。ー青い冬ー
第22章 白銀の砂
「何、じゃないよ。どうしたの?私がなんか悪いことしたかなあ」
「いや…そんなことないよ、ごめん!
久しぶりに2人でデートだから嬉しくて
ぼーっとしてた」
「ふーん、本当にい?」
「ほんとほんと」
こんな気休めにもならない会話で、1日何万もくれるというから申し訳ないくらいだが
本当にやりたかったのはこんなことじゃない
もう一度会いたかったんだ
「じゃあ、今日はこれくらいで勘弁してね
ありがとう」
「こっちこそ、また会おうね」
やっとまとまった金額になった
貯金を切り崩すのもいいが、それは他の機会にとっておくべきものだった
万札を束にしてポケットに詰め込んだ
もう我慢の限界だった
早く会いたくて会いたくて
早く顔を見たい
でも叶わないから
せめてそれに似たあの子を探している
それがあの子にとって迷惑なら
そう言ってくれるまで引き返せない
あの子は店に顔を見せないし、連絡も取れない
通話が繋がってもいつも無言だ
つながらないことの方が多くて
だけど着信拒否されていないようなのが唯一の救いだった
ふと気がつくと電話をかけている
機械の音が何度も繰り返すだけで
無音のノイズさえ聴かせてもらえない
「…やっぱり、今日は出ないのか」
諦めて切ろうとした
《…誰》
返事だ
待ち続けていた【声】だ
「…!ナナ…?」
でも、少し想像より低い
《は?俺は紘だけど。》
紘…
どこかで聞いたような、確か…雑誌だったか。
でも十中八九それとは別人だろう。
珍しい名前でもない
「すみません間違いました」
《ああ、もしかして…》
「はい?」
《ナナって、ショートヘアの可愛い子?》
「そう…ですけど」
《…じゃあやっぱりあんたか》
「え?」
《俺、その子の彼氏》
「は、はあ…」
《その子連れてロシアに帰るから。
悪いけど。忘れた方がいいと思うよ。じゃあ》
ロ…?
「え?あ、おい!待った」
《…まだ何か》
「いつ、ですか」
《うーん、それはこの部屋次第だな。
ああ、つまり未定だけど。都合がつき次第すぐに》
「あの、その前に一度だけナナさんに…!」
《無理、駄目、拒否する。
…ん、良かった、起きた。
じゃ、さよなら落ちぶれホストさん》