触って、七瀬。ー青い冬ー
第23章 舞姫の玉章
「よくないんだよ!」
高梨の胸ぐらを掴んみあげようと思ったが、
重すぎて服が伸びただけだった
「うん、ごめん、でも頭痛すぎて今何も考えられないわ。お前頭固すぎな」
「ざまあ!」
ついでにもっと懲らしめてやろうと拳を握ったが、
高梨は頭を抑えたままで、十分報復はできたようだった
「…じゃあ何で翔太だった」
「それまだ聞くかなあ…もう終わったことじゃん
そういうのにこだわるの良くないと思います。
ウザいしどうでもいいことだし」
「どうでもよくねえだろうが」
「始まったよ…」
「お前は一人で悠々自適に育ったからわかんねえだろうけど、同じ環境で育った兄に負けるって相当腹立つから」
「勝ち負けとかじゃないじゃん?馬鹿なん?」
「いいや俺は翔太に負けるのだけは絶対断固として認めない」
「それ他でやってよ、人巻きこむな」
「別に他のことはどうだっていい
俺はお前のことだけが気に入らない
人生で翔太に負けたことは確かにないわけじゃないしむしろ何度もあったかもれない
でもお前が俺じゃなくて翔太を選ぶのだけは絶対に許さない。紘は論外」
高梨伊織は至って真剣な切なる思いを伝えたはずだった。しかしそれはやはり、届かなかった。
「は…意味不明すぎキモ引く何様」
高梨伊織は溜息をついた。確かにこの流れで何を言おうと逆効果、更に七瀬夕紀の前では憎まれ口を叩く癖の弊害で言葉は決して純粋にはならない。
フィルターがかかって悪い方へ転がってしまう。
高梨伊織は自嘲した。
「伊織様ー、ってブス供が言ってるけど」
七瀬は本気でキレたようで高梨の肩をどついた
「は、カスかよお前お金もらっといてそういうこと言うか普通」
「だって俺可愛い子しか客と思ってないから」
「腐ってんな」
七瀬は少しだけ変わった。
俺は変わっていない。
だけど気持ちは少し変わった。
七瀬は俺の側にいたから危険な目にあったんじゃない、七瀬が危険を呼び寄せる
俺がいなくても紘という危険人物が現れ、桃屋なんとかも現れ、結局は七瀬が利用される
それが分かったなら今はもう、わざわざ嫌いになってもらうなんて言い訳も必要はないし
三刀屋が言った通りの玉砕も望むところで
「でも辞めたのは本当」
高梨はかしこまってどこかのアイドルみたいに笑った
「嘘だ」