触って、七瀬。ー青い冬ー
第7章 二人の記憶
「高梨」
僕達は歩いている。
寒い、暗い、11月の道。
緩やかな下り坂になっていて、広い歩道には高い高い木々がそびえ立って並んでいる。
「高梨、待って」
僕は高梨に手を引かれて歩いていた。
高梨の手は冷たかった。
僕の手首にはまた包帯が巻かれていた。
高梨は歩くのが早かった。
それでもいつもは僕に合わせてくれている。でも、今日は僕のことを構わないでどんどん進んでいって、僕を引っ張る。
「どこに向かってるの」
僕は聞いた。
道の左側には、港が見える。
海に、ビルや街灯の光が映って反射していた。
たくさんの車は何事もないかのように、白と青のライトを僕達に浴びせては去っていく。
「誰もいないとこ」
高梨は振り向きもしないで行った。
僕を引っ張る足はどんどん早くなって、
僕はほとんど走っているのと変わらなかった。
僕達はもう2時間は歩いていた。
「高梨、明日学校あるんだよ」
「ああ、あるな」
高梨はきっと目的地なんて決めてない。
こんなに広い道を歩いたことはなかった。
初めて来た道。
もう戻る道なんか、僕はわからない。
スマホも何も持たないで、シャツの上にコートだけ着て、飛び出してきた。
高梨は制服の上に、コートを着てマフラーをして、スクールバッグを持っていた。
あの後、高梨は僕を連れ出した。
“ もう何も説明しなくていい ”
“ 逃げよう ”
…逃げてどうするの?
“ 当てはある ”
港を通り過ぎて、大きな通りに出た。
初めてくる街だけど、大きくて、新世界みたいだった。
明るくて、広くて、こういう場所を都会っていうのかなと思った。
僕は自分の町の外へ出たことはほとんどなかった。両親はいつも仕事で、僕は家の中で一人で遊んでいた。
それは高校に入っても変わらなくて、
寄り道も土日の遊びも知らないで生きてきた。
高梨といると、新しいことがたくさんある。
こんなに大きな街にいたら、僕は消えてなくなってしまいそうだと思った。
22時を過ぎているのに、人が沢山いる。
この人達は、一体どこからきてどこへかえるんだろう。
高梨は立ち止まった。