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take a breather

第22章 Song for me

フェス当日。開催時刻より、かなり早めに集合
仕事内容の説明を受け、スタッフTシャツとキャップが渡された

俺たちの仕事は至ってシンプル

会場最前列で、ステージに背を向けしゃがみ
客が盛り上がり過ぎた場合のみ、ステージに近付き過ぎないように制するという物だった

「今の人たちはそこまで過激じゃないし
ゴリゴリのロックフェスではないから、そこまで大変ではないよ」

責任者の人が笑顔でそう話してくれた

「ただ、この暑さの中ずっと野外にいなくてはならないから
熱中症にはくれぐれも気を付けて
こまめな水分補給と休息を取る為に
アーティスト2組のパフォーマンス終了毎に交代制でやって貰うね」

それなら安心

体力に特別不安はないけど
この炎天下じゃ、いるだけで水分が失われる

「待機場所が用意してあるから
そこで着替えもしておいて」

時間に余裕があるから、待機場所まで雅紀とのんびりと歩く

フェスが開催される場所は、地元の森林公園

木陰もあるし、これなら来場客も休息を取りながら楽しむ事が出来るな

「久しぶりにここ来たよ
子供の頃はよく親に連れて来て貰ってたけど
フェスなんてやるようになったんだな
知らなかった」

「うん。ここ3、4年かな?
結構有名なアーティストも参加するから、チケット取るの大変なんだよ?」

3、4年か…なら知らなくても当然か

俺が大学に入ってもう3年目
第1回が高3の時だとしたら、受験勉強でそれどころではなかっただろう

「あ〜楽しみだなぁ」

雅紀のワクワクした声

「誰かいるの?目的のアーティスト」

「まぁ、何組か
でも、今のイチオシは智かな?」

さとし?聞いたこと無い名前

「誰?それ?」

「知らない?『大野智』
今、若い女の子の間で『泣ける歌』って話題になってるアーティストだよ
TV出演がまだ無くて、ライブも狭い会場でしかやってなくてさ
今回のチケットも、智のせいで更に入手困難になったって話だよ?」

「へぇ…そうなんだ」

泣ける歌ねぇ…俺には関係ないな
歌を聴いて泣いたことなんて、未だかつてないし

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