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take a breather

第22章 Song for me

「智は、高校を卒業して、町工場で働いてた
久しぶりに歌を聴かせてくれって、カラオケに誘い出して歌わせたんだ
そしたら、昔よりもパワーアップした歌声でな
即、仕事を辞めさせて、ウチからデビューさせた」

「知りませんでした
大野さんのデビューのキッカケ…」

俺…智の事、何も知らない…
もっと色んな話聞けば良かった

「智の歌は人の心に響く
櫻井も身を持ってわかってるだろ?」

「はい…」

「表現者は、リアルな感情を表現する為に人生経験を積んだ方がいい
恋愛もまた然り…
でも、アイツの恋愛相手は男でなきゃならない…
俺はそういった事に偏見はないが
世間的には残念な事に、まだ一般的ではないだろ?」

「そうですね…」

「経験は積ませてやりたいが
まだ歌手としての実績が少ない智に、その手のスキャンダルは命取りになりかねない
だから櫻井には申し訳ないが…」

やっぱり認められないよな…俺たちの関係は…

「智の傍に置いて、智のパートナーになって貰おうと思ったんだ」

「……はっ⁈」

思っていた事と真逆の事を言われて驚いた

「いや、ほら、マネージャーなら四六時中一緒に居ても怪しまれないだろ?」

気不味そうな笑顔を浮かべ、話し続ける社長

この人…智と同じ思考回路してる?
考え方が単純なのか、それとも大胆なのか…

「怒ったか?櫻井の事、当て馬みたいに扱って」

「あ…いえ…怒ってはいませんけど…」

社長がホッと息を吐いた

「よかった…
あぁ、国分の事も恨まないでやってくれな?
アイツはアイツなりに、ふたりの事を守ろうとしてたんだ
俺にふたりの関係がバレたら、櫻井が解雇になると思って
なぜ櫻井が智に付いてないのか問いただしても、なかなか口を割らなかった」

普通なら、国分さんの言う事の方が正しい

「国分さんが、大野さんを大切に思っている事はわかってます
だから、国分さんの事も恨んでなんかいません」

「そっか。よかった…
なら、話はこれで終わりだ
早く智の所に行ってやれ
アイツ焦れて、またレコーディング所じゃなくなる」

「はいっ、いってきます」

「智の事、頼んだぞ?」

立ち上がって社長にお辞儀をすると、社長は片手を上げ、笑顔で見送ってくれた

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