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take a breather

第25章 P・A・R・A・D・O・X

「その絵、気になる?」

目を凝らし絵を観ていた所に、突然声を掛けられビクッとした

入学式の今日は、誰も通らないであろうと思っていた美術室の前…

油断もあったのかも知れないが
声を掛けて来たこの人も、わざと気配を消して近付いて来たんじゃないか?ってくらい、足音がしなかった

「その絵、気になる?」

返事をしなかったせいか、もう一度同じ事を問われた

「あ、はい…去年の夏に一度観たんですけど、それからずっと頭から離れなくて…」

「んふっ、ありがと
キミ、新入生だよね?
さっき入学式で挨拶してた」

入学式に出席してたのか…
って事は、先輩ではない?
入学式の参列者は、新入生とその保護者、そして教員と招待客だ

若そうだから先輩かと思ったけど
そんな訳ないか、彼が着ているのはスーツだ

「はい…あの、あなたは?」

「ん?俺?その絵の作者
で、この学校の美術教師だよ?」

「えっ⁉︎」

この絵の作者?だから『ありがと』なのか…

それにしてもこの絵、一般人が描いた物だったんだ…
いや、美術教師なんだから、一般人ではないのだろうけど
あまりにも繊細な絵だから、プロの画家が描いた物だと思ってた

「ここにね、サイン入ってるんだよ?」

その絵に近付き、下の隅を指さす 

そこには、アルファベットで…

「SATOSHI.OHNO」

「そう、大野智。よろしくね、新入生代表の櫻井翔くん」

大野先生がふにゃっと笑う

可愛らしい笑顔に、この人いったい何歳なんだ?と思った事は、黙っておこう

「よろしくお願いします、大野先生」

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