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take a breather

第25章 P・A・R・A・D・O・X

「そろそろ戻りますね
コーヒーごちそうさまでした」

「あ〜…口紅、落ちちゃったね」

大野先生の方を向いてお礼を言うと
先生が残念そうに俺の口元を見る

「え?ほんとですか?
ご飯食べたからですね」

「可愛かったのにな、紅い唇」

唇が可愛いって…しかもそんなジッと見られたら照れるんですけど…

「だ、大丈夫です。女子から口紅貰ったんで、塗り直しますっ」

「え⁈貰ったの?」

「はい。100均で買ったんだけど、赤すぎて自分じゃもう付けないからあげるって…」

帯の中に忍ばせておいた口紅を取り出した

「なんだ…良かった…」

それを見てホッとした様子の大野先生

口紅が落ちちゃった事、そんなに残念だった?

「貸して?塗ってあげる」

大野先生が手のひらを差し出してきたから、その上に乗せた

ここじゃ鏡はないし
トイレで塗り直すのも誰かに見られたらヤバい奴に思われるから、大野先生にお願いする事にした

「口紅って、昔は指で塗ってたんだよ?
知ってた?」

大野先生が口紅を少しだけ出して、薬指に付ける

「いいえ、知りませんでした」

口紅の歴史なんて考えた事ないし

「薬指のことを、紅さし指とも言うんだ」

大野先生が左手を俺の顎に添え、少し上を向かされる

「…っ!」

ドキッとして、一瞬身じろいでしまった

「じっとしてて…」

囁くような大野先生の声が色っぽい

ドキドキして目を開けていられなくて、ぎゅっと瞼を閉じた

唇に感じる触感は固形物のモノではなく
柔らかく温もりのあるモノ

すぅっと唇をなぞられ、ぞくっとする

「はい、出来たよ」

「あ、りがと…ございます…」

恥ずかしくて、視線を上げていられない

「男性が女性に口紅を贈る意味って知ってる?」

「し、知りません…」

口紅を贈る相手なんていないから、知る必要もない

今はそんな事よりも
大野先生の声が色っぽくて、心臓がバクバクして何も考えられない

「少しずつ返してって意味なんだよ?」

「えっ?」

意味がわからず顔を上げると、大野先生がニコッと笑った

「今度、櫻井くんにリップクリームプレゼントしようかな」

どういう意味?

「さ、いってらっしゃい
クラスの片付けが終わったら、また来てね」

「…はい」

言われた意味を理解することなく教室へと戻った

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