テキストサイズ

take a breather

第8章 rolling days

寝ているかあちゃんの頬に触れた

「あったかい…」

隣に立つ先生がお辞儀をして部屋を出て行った

これからだったのにな…
これから幸せになれるはずだったのに…

溢れる涙がポタポタとかあちゃんの顔に落ちる

「うぅっ…かあちゃん…」

「智くん…」

いつの間に入ってきていたのだろう…
扉の前に立つひとりの若い男性

その人が俺に向かって歩いてくる
さっき廊下にいた3人の内の一人だ

大きな目をウサギのように真っ赤に染めたこの人は
きっとかあちゃんの為に泣いてくれたんだろう

こんなに泣いてくれる知り合いがいたかあちゃんは、決して不幸ではなかったんじゃないかな

そして同じ哀しみを抱いてくれたこの人に親近感を覚えた

「うぅっ…」

この人を見たら益々涙が止まらなくなった

そんな俺をその人は両腕で優しく包み込んでくれた
俺は彼の服を握りしめ思いっきり泣いた
泣き止むまでずっと俺の背中をさすり続けてくれたこの人はとても優しい人なんだろう

「あ、りがと…ござい、ます…」

他人の胸で泣いたのは初めてのこと

お礼を言って離れるとその人は優しく微笑んでくれた

「落ち着いた?」

「はい…」

「そっか…まだ辛いと思うけど、これからのこと話し合わないといけないから一緒に来てくれる?
智くん、身内の人 いないんだよね?」

「はい…」

じいちゃんは早くに亡くなったし、ばあちゃんは一昨年亡くなった
一人っ子だったかあちゃんに、俺が知る限り身内はいない

俺は天涯孤独の身となった。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ