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take a breather

第8章 rolling days

葬儀は知り合いが多いわけじゃないし
身内もいないから
俺に負担を掛けないようにと小規模で執り行った

店長さんや、お店の人が代わる代わる手伝ってくれたし
櫻井さんもずっと傍にいてくれたから
なんとか無事に終わらせる事が出来た

後はこれからの事を決めなくちゃ…

まだ中学生の俺は独りで暮らすことは出来ない
おそらく施設に入る事になるだろう

それは仕方のない事で
そう覚悟を決めていた俺に櫻井さんがとんでもない事を言ってきた

「智くん…もし、君が嫌じゃなければ
僕と一緒に暮らさない?」

「へ?」

それはあまりにも驚きの提案
まだ付き合いたての彼女の子供の面倒を櫻井さんが見る義務は一切ない…

しかもまだハタチそこそこで
この春に就職したばかり

こんな若い人にお荷物を背負わせるなんて出来る訳がない

人が良いにも程がある

「そんなこと出来ないよ」

「そっか…やっぱり嫌だよね…
僕と暮らすのなんて…」

寂しそうに微笑む彼

「イヤッ!そうじゃなくて!
櫻井さんに迷惑掛かるからっ」

「僕に?僕なら大丈夫だよ?
就職をキッカケに実家から出て一人暮らし始めたし
誰にも迷惑なんて掛からない」

なんて呑気な…
それは『櫻井さん』にじゃなく、『櫻井さんの周り』に迷惑が掛からないだろ?

「じゃなくてっ
櫻井さん自身に迷惑が掛かるから」

「え?…あ〜、僕のことなら全然気にしなくて大丈夫だよ?
前に言っただろ?
智くんとなら一緒に暮らしていけるなって思ったって」

「それはかあちゃんがいたらの話だろ」

「いてもいなくても一緒だよ
智くんが良い子には変わりないんだから」

ほんとこの人大丈夫か?
こんだけ人が良すぎるとちょっと心配だぞ?
誰かが見ててあげないと貧乏くじ引きそう…

かあちゃんが生きていればかあちゃんの役目だったんだろうけど
かあちゃんが亡くなって直後の今、次の人を見つけるのは難しいだろう…

「わかった…俺、櫻井さんと一緒に暮らすよ」

「本当⁈よかったぁ…」

かあちゃん、俺 かあちゃんの代わりにしばらくの間この人守ってあげるよ。

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