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take a breather

第3章 このままもっと

智くんが作ってくれた朝食を食べて、会社に行く準備を整える。

「さてと、行きますかっ!」

立ち上がって、気合いを入れるために両頬を思いっきり『パンっ』と叩いた。

「今日何かあるの?」

丁度、着替えを終えて部屋から出てきた智くんに訊ねられた。

「ん?まぁ、ちょっと…得意先に新たな商談に…」

「そっか…」

その得意先にアイツがいるんだけど…

俺の方に向かってトボトボと歩いてくる智くん。
目の前に立ち止まると、俺の頭をポンポンと叩く。

「いってらっしゃい」

いつものフニャッとした笑顔を向けられると自然と勇気が湧いてくる。

「いってきますっ!
てか、アナタも出掛ける時間でしょ」

「ははっ…だな」

「ほら、行くよ」

智くんが言ってくれた『いってらっしゃい』には違う意味が含まれてるのはわかってる

智くんは、俺の元カレのアイツが得意先の人間だって知ってるし…

こんな風に朝から気合い入れて出掛けることなんてしたことないし。

この一週間、智くんのお陰で心の痛みは感じなくなった…
でも実際会うとなると正直まだ怖い。

そんな俺の背中を押してくれたんだよね?
『大丈夫だからいってらっしゃい』って。
また傷口が開いた時は智くんに頼ればいい。

それにしても、俺のほんの僅かな言動を見逃さないんだよなぁ

25年間付き合ってきた賜物なのか。

でも、俺は智くんのことここまで理解出来てない
ってことは、智くんだからなんだろうな。

昔からそう…言葉少なで控えめで
なのに周りの事はよく見てるから、アドバイスや励ましの言葉が的確。

感情の起伏もなく穏やかで、俺よりも全然大人なんだよな

そっか…だから子供扱いされてんだな、俺。

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