テキストサイズ

take a breather

第16章 WISH

切るものも取り皿もないから
少し体を捩り、ケーキを挟んで向かい合う

ふたり同時に苺にフォークを刺すと顔を見合わせ笑った

「やっぱこのケーキは苺からだよな?」

「うんっ!だよねっ!」

同時に苺を口に入れ咀嚼する

「「あまっ!」」

ふふっ、と嬉しそうに食べるキミが可愛くて
ケーキを食べることも忘れ見惚れてしまう

「ごめんねっ」

突然謝られ、ハッと意識を戻した

「え?なに?」

「僕が勢いよく食べてるから
大野くん、手出しづらいよね?」

「ううん、そんなことないよ
ちゃんと食べてるよ?」

櫻井くんに気を遣わせたく無くて
大きめにケーキを切り取り口に入れる

「んっ!うまっ!」

「ふふっ、クリーム付いてるよ?」

「え?どこどこ?」

指で口元を触る

「ここ…」

優しく微笑むキミの手が
俺の唇の端に触れた

キュッと縮まる心臓…

周りの騒音が消え
ドキドキという心音だけがやけにうるさく鳴り響く

「取れたよ?」

「あ…りがと…」

「どういたしまして」

甘いケーキを食べてる筈なのに
いつもより甘酸っぱく感じたのはなんでだろ…

「あ〜おいしかったぁ」

ケーキを完食し満足そうに片付けをする櫻井くん

「大野くん、明日もバイトでしょ?
そろそろ帰ろっか」

「う、ん…」

昨日、今日とバイトだったけど
忙しくて疲れたけど
明日も朝早くに行かなきゃならないけど

帰りたいとは思わなかった…

ストーリーメニュー

TOPTOPへ