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a faint

第2章 white-night obsession


white-night

昨夜 俺を焦らしたアノ指が カードをシャッフルする。

手のひらの上にはスペードのJ。

「J(彼)を射止めたのは……」

翳した手の下で ダイヤのQへ化けたカードが パチンと指が鳴ると同時に 今度はハートのAに早変わり。

ドッと場がどよめき テーブルを囲むオンナ共が 姦(かしま)しく沸く。

”ガード下の安っぽい恋占いかよ…”

目の端に映る騒々しい盛り上がりと 胡散臭い営業スマイル。

”……馬鹿馬鹿しい”

普段なら座るコトのない止まり木で 態とらしく呟いてみても 一ミリたりとも此方へと向きやしないアイツの視線。

チロと舐めるように シングルモルトを口に運びながら ささくれた気持ちに不釣り合いな そのピンと張ったカフスに目をやる。

身の丈丁度に誂られたシルバーグレーのスーツ。

それに合わせたラベンダー色のアスコットタイとポケットチーフはシャンタン織り。

なんの脈絡もなく唐突に そんなのを一式寄越してくるのが小憎らしい。

見合う革靴を貰ってないから 強請ってやろうと 久方ぶりに商売っ気抜きで 店(おもて)に降りてきてやったってのに 放置プレーも甚だしい。

我関せずな顔して カードマジックを披露してるその横っ面 ひっぱたいて こっちを向かせてやろうか。

鮮やかな手技を繰り広げる無駄に器用なアノ手。

”……性質(たち)が悪い”

独り言(ご)ちたせいか これ見よがしにアルコールを一気に呷ったせいか 昨夜あの手と指に探られたあちこちの残火がジンと疼いて 身体を熱くする。

我ながら そのはしたなさに

”パブロフの犬かっての”

自嘲めいて込み上がる笑いを殺す代わりに アイツを殺(や)ってやろう。

親指を立て 人差し指を前に…銃に見立てた手を構えて 狙って…

”…死ネ この野郎”

ほら やっとこっちを見た。

フフンと銃口を吹く真似すれば ニヤと気障ったらしく笑う口が

”馬ー鹿 馬ー鹿 馬ー鹿”

馬鹿三連発の返り撃ち。

そんなお巫山戯に うっかりときめいたりなんかしてる自分に堪らず苦笑い。

ああもう その悪い手に 悪い指に 悪い口に 酔ってしまう 酔ってしまう。

ヤラれた イカれた

手慰みにやってたバーテンダー相手のチェスも 詰んでしまった。

思わぬ失態 思わず失笑。

今宵は撤収 クソ喰らえ。


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