
俊光と菜子のホントの関係
第4章 『私と俊光君』
「父さんと母さんから聞いたんだけど……お前、俺のことでケンカしたんだって?」
「う……うん……」
心配そうに見下ろす俊光君。なのに――
うぅ……山田の言ったことが頭にチラつくから、後ろめたくて直視出来ない。早く忘れないとっ。
「はぁー……。お前なぁ、女の子のクセに男子殴るって。小学生の時とは違うんだぞ? それなのに――」
「も、もーう俊光君までー。お説教はもうたくさん。お腹いっぱいだよぉー」
似たようなこと、お父さんにもお母さんにも散々言われたんだからぁ。
「そんなに俺のこと悪く言ってたのか? その、山田ってヤツ」
「う……うん……」
詳しい内容は……言えないけど。あの暴言を絶対に知られたくなくて、先生にはもちろん、お父さんとお母さんにさえも口を硬くして黙りきったんだもんね。
そういえば、あの山田も意外なことに、悪口の内容を言わなかったんだよね。……ま、自分の立場を不利にしたくなかっただけなんだろうけど。
「たくっ、バカだなー。俺のことで大袈裟にケンカして」
「っ、だって……」
「けど……俺もそうするかも」
「え?」
「お前のこと、悪く言うヤツがいたらムカつくし。
ヘタしたら、お前みたいに殴るかもしれない」
「俊光君……」
「ははっ。父さんと母さんに『俊光からも菜子に言ってやって』て頼まれたのに、同調するようなことを言ったら、俺まで説教だなー」
「……っ、ふ……」
「な、菜子っ?」
「う……うわぁーーーーんっ!」
「お、おいっ」
椅子に座ったまま俊光君の腰にしがみついて、わんわん泣いた。
先生からも、お父さんとお母さんからも、お説教を受けても泣いたりしなかったのに……。俊光君のあったかい雰囲気で、今日初めて泣いちゃった。
「……よしよし。思いっきり泣いとけ」
っ、俊光君……。
頭を優しく撫でられたら、更に涙が増した。
ほらね。やっぱり俊光君は違うんだよ。
妹をどうこうしようとする卑劣な兄じゃないんだよ。
