Receptor
第1章 receptor
教室に戻っても、ふたりは目を合わせられずにいた。
弥寧の頬を叩いてしまった後悔と、重なった甘い唇、欲情して熱を帯びた弥寧の瞳が交錯して、紀の心は乱される。
ふたりは関わる事を避けていた。
散漫になっているふたりの間を割って
「帰りにどこか行かない?」
声を掛けてきたのは桜華と柊依だった。
紀は表情を緩めたが、直ぐに影を潜めた。
「ごめんね…今日は行けそうにないんだ…」
「そっか、また誘うね」
貫は紀に家事の一切を任せきりで、紀は遊びに行く時間もあまりなく、家事に追われていた。
不満がないと言えば嘘になる。
それでも、貫の為ならば全てを許せた。
*
紀は買い物袋を抱えて家に帰ると、毎日の家事を手際よく終わらせていく。
貫の為に忠実(まめ)に働く紀は、誰の目にも健気だった。
キッチンに立つと、夕飯の支度を始めた。
貫に満足して貰いたくて、いつも何種類もの献立を考える。
壁の時計は貫が帰宅する時間を指していた。
出来上がった料理をダイニングテーブルに並べ終えると、紀は椅子に座って貫の帰りを待つだけだった。
徒らに時間だけが過ぎていく。
待ち疲れた紀はテーブルに伏せて眠ってしまった。
時計の針は深夜を指そうとしていた。
突然明かりが灯り、目を覚ました紀は眠い目を擦った。
側に来た貫は、紀の髪を優しく撫でながら
「こんな所で寝てたら風邪引くだろ?」
紀は椅子から立ち上がると、弾んだ声で貫に腕を回した。
「お帰りなさい、にぃに」
貫の体からは甘い香水の匂いがして、紀は貫の胸を押した。
胸に痛みが広がり、醜い感情に支配される。
「どうかしたのか?」
紀の心は深い闇に沈み、貫に向ける笑顔は歪んでいた。
「…料理を温め直して来るね」
紀が貫に背中を向けると、貫が
「外で食べてきたんだ」
「…そう…なんだ」
貫に突き放されたように感じ、紀は涙が溢れそうになった。
紀は感情を払拭でないまま、料理を黙々と片付けていく。
あまりにも惨めだった。
「…紀?」
貫に肩を掴まれると
「…でも、お風呂には入るでしょ?お湯を張ってくるね」
紀は返事を待たずに貫から逃げるように早足で浴室に向かい、中に入ると浴槽に湯を張りながらドアに背中を向けた。
張り詰めていた感情が溢れてきて、体が脱力すると床に屈んでドアに背中を預けた。
貫は時々、甘い香水の匂いを残したまま帰ってくる。
弥寧の頬を叩いてしまった後悔と、重なった甘い唇、欲情して熱を帯びた弥寧の瞳が交錯して、紀の心は乱される。
ふたりは関わる事を避けていた。
散漫になっているふたりの間を割って
「帰りにどこか行かない?」
声を掛けてきたのは桜華と柊依だった。
紀は表情を緩めたが、直ぐに影を潜めた。
「ごめんね…今日は行けそうにないんだ…」
「そっか、また誘うね」
貫は紀に家事の一切を任せきりで、紀は遊びに行く時間もあまりなく、家事に追われていた。
不満がないと言えば嘘になる。
それでも、貫の為ならば全てを許せた。
*
紀は買い物袋を抱えて家に帰ると、毎日の家事を手際よく終わらせていく。
貫の為に忠実(まめ)に働く紀は、誰の目にも健気だった。
キッチンに立つと、夕飯の支度を始めた。
貫に満足して貰いたくて、いつも何種類もの献立を考える。
壁の時計は貫が帰宅する時間を指していた。
出来上がった料理をダイニングテーブルに並べ終えると、紀は椅子に座って貫の帰りを待つだけだった。
徒らに時間だけが過ぎていく。
待ち疲れた紀はテーブルに伏せて眠ってしまった。
時計の針は深夜を指そうとしていた。
突然明かりが灯り、目を覚ました紀は眠い目を擦った。
側に来た貫は、紀の髪を優しく撫でながら
「こんな所で寝てたら風邪引くだろ?」
紀は椅子から立ち上がると、弾んだ声で貫に腕を回した。
「お帰りなさい、にぃに」
貫の体からは甘い香水の匂いがして、紀は貫の胸を押した。
胸に痛みが広がり、醜い感情に支配される。
「どうかしたのか?」
紀の心は深い闇に沈み、貫に向ける笑顔は歪んでいた。
「…料理を温め直して来るね」
紀が貫に背中を向けると、貫が
「外で食べてきたんだ」
「…そう…なんだ」
貫に突き放されたように感じ、紀は涙が溢れそうになった。
紀は感情を払拭でないまま、料理を黙々と片付けていく。
あまりにも惨めだった。
「…紀?」
貫に肩を掴まれると
「…でも、お風呂には入るでしょ?お湯を張ってくるね」
紀は返事を待たずに貫から逃げるように早足で浴室に向かい、中に入ると浴槽に湯を張りながらドアに背中を向けた。
張り詰めていた感情が溢れてきて、体が脱力すると床に屈んでドアに背中を預けた。
貫は時々、甘い香水の匂いを残したまま帰ってくる。