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恋の声

第2章 彼との出会い



「雪穂。仕事辞めたいの?」

「辞めたい…でも辞めれないよ…」

「どうして?」

「今辞めたら、私が悪いみたいじゃんか!私何も悪いことしてないんだよ!」

「何もしてないなら、辞めたって悪いことないじゃない」

「だって…だって…私にしては良い会社に就職できたの!もうこんなチャンスないかもしれない!
それに1年も経たないで辞めちゃうなんて…」
本当は違った。私の務めている会社はまあまあ良いところだった。母が誇らしく思ってくれていたことも知っていた。昔から兄は母の自慢の息子であったが、私は何をやっても中途半端だった。
初めて誇らしい思ってくれたのではないかと嬉しかった。だから辞めたくない。でももう我慢出来ない。

「あんたねぇ…嫌なことがあっても長く勤めてたってね、褒めてくれるのなんか、辞めた後に次に面接受ける会社の面接官の人くらいよ!
へぇー長く勤めたね、頑張ったねぇって、長く勤めてたってそんだけよ!泣いて我慢しなきゃいけない様な価値がる仕事なんか世の中ないんだからね!
辞めちまえ!そんな会社!」

なんで母はいつも、私の欲しい言葉をくれるのだろう…
「辞める。明日辞める。退職届出してくる。社宅から引っ越すから、引っ越し手伝って…」

母は声を上げて笑った
「すごい!話が決まったら本当に行動力だけはあるんだから、あんたは」


母と夕飯の支度をしている途中で、兄が帰ってきたが私の腫れた目元と書きかける退職届を見て、何も聞いてこなかった。

大人になってから、兄がモテる理由が分かる気がした。


翌日、朝早くに誰も出勤していない時間。母の車で会社まで送ってもらい、部長の机に退職届だけ置いた。
社宅の荷物は、服くらいしかなくてテレビや洗濯機の様な家電は元々置いてあったものだから、すぐに終わってしまった。

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