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恋の声

第1章 私というつまらない人間

私は21歳から一人暮らしを始めた。
就職したのは、普通の会社の事務職であった。専門学校でPCの資格やら簿記やらの資格を取っていたため、噂に聞く程には就職には困らなかった。

初めての会社初めての一人暮らしドキドキすることはたくさんあった。

そして、私はつまづいた。



「瀬戸川さん!言ったよね。お茶を第2会議室に持って行ってってさ。しかもペットボトルは会議の時にこんな500mlの大きなやつは出さないんだからさ」
「だれ?瀬戸川さんにこんなこと教えたの!」
職場の女性陣がみな顔を背ける


「わ、、私です」とても控えめそうな女性が手を挙げる。黒髪を後ろで一本に束ねた痩せ型でメガネをかけて、いかにも幸の薄い女性が細い腕を挙げている。
「また加藤さん!?もう良い加減にしてくれるかな!!会議は週と時間で使う部屋が違うのよ!」

怒鳴る化粧の厚く厚く塗り固められたお局先輩達と、弱々しい加藤さんに挟まれながら私は何も言えずに俯いた。
私は新入社員として就職した会社で加藤さんという女性は嫌がらせを受けていた。
そして加藤さんは私の指導係であった。
加藤さんが悪くないのは、私も周りの人もわかっていた。でも、誰も何も言えなかった。私は特に何も言えなかった。先輩たちも怖かったし、私も巻き込んで加藤さんに嫌がらせをしているのをどうして私も…加藤さんだけじゃなくて、なんで私もなの!?と思っている自分がいたからだった。


「ごめんね。瀬戸川ちゃん…瀬戸川ちゃんは悪くないのに、みんなの前であんなに怒られちゃって…」昼休みに加藤さんが私に缶ジュースを奢ってくれながら、話していた。
「私は……みんなも加藤さんが本当は悪くないって分かってますから…」
本当は何で私も巻き込まれなきゃいけないのと思っていた…でも加藤さんは優しくて、仕事が本当は出来る人だった。手柄は全てあの嫌な先輩たちが横取りしているようであったが…

私の母もよく仕事を転々としていたが、加藤さんと同じような目にあっていたのだろうか…
そう思ったときに思わず声が出ていた
「…加藤さんも本当は華があってキレイなんだ…」

「え?瀬戸川ちゃんなんて?」

「いやいやいや違うんです!いや違うって失礼ですね。いやえっと違うんです!!」
こんな幸薄そうな人になんて失礼な!いやこのセリフ失礼か!

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