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恋の声

第1章 私というつまらない人間

加藤さんは花のようにふふっ小さく声を上げて笑った。
「そろそろ戻らないとね」

「あつ!休憩時間!!」
私は加藤さんのこの時見せた花のような笑い方がどうも気になっていた。


翌日のことだった。
「おはようございます…」また加藤さんに巻き込まれて嫌がらせされる1日が始まる…

しかしオフィスはやたらとザワザワしていた。
何事であろうかと自分の席に着いた。
すると隣の席の飯田さん(パートさん)は、私をすぐに捕まえた
「ちょっと瀬戸川ちゃん!見た?あの加藤さん!」
「え?加藤さんですか?加藤さんならあそこの席に…あれ?」


加藤さんの席には、メガネをかけた黒髪の幸の薄い女性ではなく、街ですれ違えば誰もが振り向くような綺麗な女性が座っていた。
その女性は私を見ると花のように笑い、私に近づいてきた。
うわぁ近くで見ても圧倒される美人…
「おはよう瀬戸川ちゃん」
声は聞き慣れた加藤さんのものだった
「加藤さん…」何も言えずに立ちすくむ
「私ね、今まで仮面を被っていたのよ!今までは嫌がらせされないように、あんな姿してたのに…逆に瀬戸川ちゃんを巻き込むほどに嫌われちゃったからね。
みなさーん。私に嫌がらせをしていた、みなさんでーす。私、この会社の社長の息子と結婚することになりました。ずいぶん前から付き合っていましたが、みなさんには黙っていました!本日付で寿退職いたします!」オフィス中に響く程の加藤さんの声が皆の耳に届いた。

「あの…加藤さん…」私も圧倒されて思わず裏返った声を上げた。
「びっくりした?ごめんね。でも瀬戸川ちゃんはこのまま頑張って仕事続けてね。
昨日、本当は華があるって言ってくれた時、この子は私のこと見てくれてたんだなって思って嬉しかったのよ。」また加藤さんは華の様に笑った。

その一日は、先輩たちからの嫌がらせは全くなかった。仕事の終わりに部長から加藤さんに花束が贈られ、加藤さんはオフィスから去って行った。

でも私は加藤さんから言われた言葉が胸に突き刺さっていた。
私は加藤さんのことなんて見ていなかった。なんとなく母が仕事を辞める理由が分かった気がして出た言葉だったから。

今日も、寿退社したことで私への嫌がらせもなくなるんだと安心した自分がいた。
自分の嫌なところが、ポロポロこぼれ落ちて。私は涙が出ていることに気がついた。

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