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恋の声

第1章 私というつまらない人間

加藤さんが退職してから、パタリと私への嫌がらせは止んだ。
となりの席の飯田さんもよかったね…と言葉をかけてくれて私も安心するばかりだった。

平和は長くは続かなかった。

7月15日にボーナスが支給された。私にとっては初ボーナスであった。
「瀬戸川ちゃんは初ボーナス何に使うの?」飯田さんは笑顔で話しかけてくれた。
「そうですね…母に何かプレゼントでも。初任給は自分の好きにしなさいってプレゼントも食事も断られたんです。」短い髪を耳にかけながら苦笑した。

「そっかぁお母さん1人で育ててもらったんだもんね。良い子に育ってお母さんも安心してるわよきっと!」

私たちが話している姿を他所からコソコソと見て陰口を言っているのが視界の端に映っていた。

「気にしちゃダメよ。ほら…加藤さんに嫌がらせしてた人たち、ボーナス出なかったみたいよ…自業自得なのにね。」

「はぁ…そうですね…」
加藤さんも結構やるなぁ…旦那さんに自分の嫌がらせしてる人たちのこと言ったのかなぁ…

実は腹黒だったのかも…

私は何にも考えていなかった。

嫌がらせには大した理由なんていらないことに。


翌日より私の私物がなくなることがあった。
あれ?お気に入りの猫の絵が描いたボールペンがない。まぁどこかに紛れているかも…

その翌日も、翌々日も…物がなくなることから、少しずつエスカレートしていった。


「瀬戸川さん…どうしたの?書類の提出期限切れてるけど…」
「ちょっと…頼んでおいた在庫の管理まだ出来ていないの?」
「え!?入力データも過去のデータも消えた!?勘弁してよ…」

書類はまず提出期限言われる以前にその書類の存在を私は知らない。
在庫の管理も頼まれていない。
トイレから戻ったら、PCのデータが消えていてバックアップも全て消されていた。

嫌がらせの相手が私になっていた。

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