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第1章 葬儀屋サイコメトリ

 一人息子ということもあって、両親は口には出さないが──冬華などはたまに「あんたどうすんの?」と将来のことを尋ねてくることもある。よくあるホームドラマのように別に家業を嫌うこともなかったが……なかったが、このなんとも言えない能力は確実に葬儀屋には向いていない。
(……受験受験)
現実逃避のようにそう思い直し、春樹は筒をぽすりとネコグッズの上に置き立ち上がる。
 廊下にある、古い時計が0時を報せる鐘を鳴らしたのは──そのときだった。
 「……?」
突然背後から生暖かい風が吹き、春樹はエアコンが壊れたのかとその程度の認識で振り返る。ところが──
「……!?」
その先に広がる思いもよらない……信じられない光景に、思わず後ずさって目を見開いた。
 窓辺でユラリと揺らぐ青白い炎。
 だというのにタオルや衣類は原型を留めたまま──その炎の中にいるネコも、まるで今から散歩にでも行くかのように平然と大きく伸びをして起き上がり、ネコのくせに「ンン~」と気持ちよさそうに喉を鳴らすと一度ユラリと尾を振った。
 そしてぱっちりと目を開き、ふと気付いたように春樹の方を見たときには……その尾は二つに割れており、風になびく柳のようにゆらゆらと、気怠そうに空気を撫でていた。

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