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第1章 葬儀屋サイコメトリ

百年前というと、日本は大正辺りだろうか。
(……夏目漱石の猫)
時代的に、おそらく日本一有名だろう物語るネコの話が思い出される。あれは耳の先からしっぽの先、爪先まで真っ黒な福猫だったというが……猫又を名乗るならば、靴下を履いたネコよりかは黒猫の方がまださまになる気がする。
 そしてその、いかにも妖怪らしからぬピンクの肉球模様の靴下を見ながら、モモはふうと小さくため息をついた。
『まだ鬼火も出せぬな……。猫の世界でも話には聞いていたが、実際になってみると大したこともないな。今はこうして口が利ける程度か。──それより、お前のあれは何なのだ?』
「は?」
『猫のように瞳の形が変わっていた。カレンダーに触っていたとき、何か視ていただろう』
「ああ……これ」
さすがに百年生きてきただけあって、モモは人間の作ったものの名称がある程度分かるらしい。
 そうして春樹は促されるまま、もう一度カレンダーを取り出して八月のページをモモの前で開いてみせた。
「……俺の力は、人の世界じゃ“サイコメトリ”っていうらしい。物に触ると、その物に宿った記憶を読み取れる──て言っても俺が視えるのは亡くなった人に関する物で、思い出とかが強く残ってるやつだけなんだけど」

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