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第1章 葬儀屋サイコメトリ

「……まあでも」
『む?』
「……俺は猫又の寿命なんて知らないけど、いつかまたおばあさんに会えたときのために、たくさん楽しい思い出作っていけばいいんじゃねーの。今度は口が利けるから、ばあちゃん同士、茶飲み友達できるだろうし」
『私はばあちゃんではない! まったく、おなごに向かって失礼な!』
シャーッと声を上げいかにもネコらしく怒るモモを前に、いっそ名前に「百」という字を充ててやろうかと苦笑しながら春樹はカレンダーを拾い上げる。
「コレいる?  ……ていうかその前に、このままうちにいる?」
『……うむ。四月の雄猫がなかなか私好みだった。そのページを一年中この部屋に掲げておくなら、ここにおってやらんこともない。それから、さっきから気になっていたがお前は目上のものに対する礼儀がなっとらん。様を付けろとは言わん、私のことは親しみも込めて“モモさん”と呼ぶがいい』
「……お前のばあちゃん、絶対お前の飼い方間違ってたわ」
『何か文句でもあるのか?』
「いや……ないですモモさん」
『で、あろう』
えへん、と胸を張る靴下を履いたネコは、それからあれこれと春樹に衣食住の注文を付け、それが済むと大満足したようにベッドのド真ん中でコロンと寝転がる。
 一方、ひと足先に春を迎えてしまった部屋は、張っていた糸が切れてしまったようになんとも気の抜けた、浮き世離れした空気に変わってしまっていた。

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