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第2章 猫描戯画




 その些細な違和感が顕れたのは、虫の音すら失せた夜更けの頃だった。
 いつものように安酒で一杯やって、いい気分のまま眠っていた藤次郎の耳に、
「ニャアォ」
どこか野太い、猫の声が聞こえてくる。
 あの絵を酒の肴にしていたからそんな空耳が聞こえたのだろうか。月の下で見る絵はますますに光と影を宿して形を作り、庭先の穂でも取ってきて揺らしてやれば、今にもじゃれついてきそうだった。
 しかし眠気には勝てず無視していると、今度はぐいぐいと押すように肩を揺さぶられる。
(なんなんだ)
それでいよいよ不審に思って渋々まぶたを開けば、
「──っ!?」
相変わらず照る月の光を背負い、大きな一匹の猫が障子に浮かび上がって、藤次郎を覗き込んでいた。
 「な、あ」
一体どこから入ったのか──微かに色付く輪郭は、赤みを帯びた茶と黒の縞。瞳は背後の障子を透かしたように薄い金色をしていて、先程まで穴があくほど妙の絵を眺めていた藤次郎は慌てて飛び起きた。
 そして這うようにして向かった机の上で、その置きっぱなしだった絵を見た瞬間──その猫が「何」であるのか理解して、言葉も出せずぱくぱくと唇を震わせた。
 (まさかそんな──まさか、こんなことが)
おそるおそる振り返れば、やはり。夢まぼろしでもなく、そこにしかと存在する猫の、呆れたような視線とぶつかる。

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