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第1章 葬儀屋サイコメトリ




 「……」
そうして、そういう家に足を踏み入れる度に、春樹は何とも言えない気分に晒されて動けなくなる。反面、徳山はてきぱきと別の業者と打ち合わせを始め、野々村はさっさと道具を揃え軍手をはめる。
(……プロだなあ)
 仕事は仕事……。
 と春樹が割り切れないのは、徳山達とは異なり幼い頃から父を通して「死に関する仕事」を見てきたせいかもしれないし、感傷的過ぎるせいかもしれないし、若すぎるせいかもしれなかった。
 ──頭や心の中にあるスイッチを切ってしまえばいい。そうすれば、余計なことは感じなくなる。
 それは十分理解はしているのだけれども、こたつの上の急須と湯呑みが、冷蔵庫に貼られた一週間前のセールのチラシが、見慣れない部屋のすべてが、強烈に春樹に訴えてくるのだ。

──ここで生きていた人がいるんだけど。
──ここはあんたたちの家じゃないんだけど、と。

 「……」
そう、姉が立ち上げたもう一つの仕事とは……「遺品整理」。
 それは亡くなった人の人生を剥き出しにして、もう一度殺し潰していくような……そんなもののように春樹には感じられた。春樹だからこそ、そう感じてしまった。

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