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第1章 葬儀屋サイコメトリ

「うちは無理ですよ!? だってうちにはハヤテがいるんですから!」
「……姉さん、アレ」
「!?」
春樹の指さす先には、腹を出して「負けました」のポーズをするそのペットの豆柴ハヤテと、いかにも「フフン」といった感じでその腹に手を乗せる一匹のネコ。
 灰色ハチワレ、目はイエロー。足の先だけが白くて肉球がピンクなので、ピンクの肉球模様の靴下を履いているように見える。
 ソレはあの家に遺されていた、もう一人の住人だった。
(……あの傍若無人っぷりは、猫っかわいがりされてたんだろうな……文字どおり)
春樹はネコと、事務机の上に置かれた箱入り高級キャットフードと猫缶、たくさんのネコグッズを見比べて思う。
 ピンクの器には、「モモ」と書かれていた。



 ──そのモモの主は、八十歳になる一人のおばあさんだった。
 息子と娘が独立してからは夫婦二人暮らし。数年前にご主人を亡くしてからは一人暮らし。ただ社交的で近所の人たちとは交流があったらしく、先月、「このところ、あの家のおばあちゃん見ないわね」と気付いた近隣住人によって、遺体が発見された。病死だったという。
 和室で布団に入ったまま、本当に眠っているようだった、と。

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