テキストサイズ

その恋を残して

第6章 ここにいるよ


 丁寧に頭を下げられて、思わず恐縮する想いだった。蒼空の優しさには、感動を覚えずにはいられない。
 
 今だって、蒼空は穏やかに微笑んでくれている。だけど、何故だか蒼空は急にその足を止めた――。

「でも……どうして、なのかな?」

 蒼空は自分でも不思議そうに、右手で胸を押さえた。

「どこか、具合でも悪いの?」

 蒼空はそっと首を左右に振り――

「ごめんなさい。大丈夫です。だけど――」

「だけど?」

「ほんの少しだけ、妬いているのかな……わたし」

「え?」

「なんて、冗談ですよ」

 蒼空はそう言って、悪戯っぽく舌を出した。

 その顔はあまりに可愛らしく。思わず見惚れていた俺はこの時の言葉を深く考えようとはしていなかった。


 教室に入ると――

「朝から仲がよろしくて、結構でございますこと」

 席に着く俺に、田口がわざとかしこまったように言う。俺と蒼空が一緒に教室に入って来たことを冷かしているのだ。

「まあな」

 俺としては珍しくも、得意げにそう言ってみせる。そしたら――

「この野郎!」

 と、田口は俺にヘッドロックを仕掛けてきた。

「イテテ――放せ!」

 俺は堪らず、田口の腕を叩きタップする。実際に昨日の傷のせいもあって、かなり痛かった。

「ハハハ、調子に乗った罰だぜ」

「どういう理由で、お前に罰せられなきゃならないんだよ?」

 笑う田口を見て、俺はそう非難する。が、一方では、田口には他に言うべきことがあったことを思い出した。

「ん、なんだ?」

 黙って、立っている俺を田口は不審そうに見る。

「いや……昨日は、いろいろ……サンキューな」

 俺がイスに座るどさくさで、そう口にすると――。

 ガン、と――突如として、俺の頭部に衝撃が走った。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ