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その恋を残して

第7章 眠り姫……か

「ただの、独り言さ。それより、松名くん――蒼空の精神はとても繊細だよ。いくら起きないからといって、あまり無理を強いて目を覚まさせようとするのは危険だ。それは、わかるね」

「はい……もちろん、気をつけます」

「三十分だけだ。君に、時間をあげよう」

「あ、ありがとうございます!」

 俺が礼を言ったのを聞くと、誠二さんは沢渡さんを伴うようにして部屋を出て行った。

 こうして部屋の中は、俺と眠る続ける蒼空、二人だけの空間になる。

「蒼空――」

 俺は顔を近づけて、その名を呼んだ。だけど、蒼空はまるで反応することはなくて、小さな寝息だけを聞かせている。


「眠り姫……か」


 誠二さんが、そう表現した通り。刻が止まったように眠り続ける蒼空の顔は、とても美しく思えた。だけどそれを、このまま眺めているわけにはいかない。

 そういえば、童話の物語では『眠り姫』を目覚めさせるのは『王子さまのキス』――――!

「ば……ばか」

 自分の中にふと浮かんでいた考えを打ち消すように、激しく首を左右に振った。

 大体、王子さまって柄かよ……。だからそんなのは、自分の願望を正当化しようとしているに過ぎない。当然、却下だ。

 こんなことでは、せっかく時間をくれた誠二さんと沢渡さんに申し訳が立たない気がして、真剣に考えを巡らせようと努める。

「でも、本当にどうしたら……?」

 誠二さんの言ったように(もちろん、そんなことするはずもないけど)頬を叩いたり耳元で叫んだりするのは駄目だ。

 多重人格であるとかないとか以前に、デリケートな心を傷つけかねない。

 蒼空の綺麗な寝顔を見ながら、そんな風に考えていた時だった――。

「――!」

 俺の脳裏に、ある一場面がイメージされる。

 俺はベッドの傍らに膝をつくと、蒼空の右手を両手で包み込むように握った。そして、その手を額に当てて、両目を閉じる――。

 そうだ。これは沢渡さんに話してもらった、蒼空と怜未の一場面である。

 事故で生死をさまよっていた怜未に、蒼空がしていたという。その行為を、俺は真似ようとしていた。

 そして――俺は心の中で、祈るように蒼空に語りかける。


(蒼空……蒼空……)


 とにかく一心に、その名を……。

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