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その恋を残して

第1章 好きにならないで!


    ※    ※


「あの――松名くん」

 そう呼ばれたのは、学校を引き上げる直前の昇降口。つまり、昨日と同じ場所。そして、話しかけて来たのも同じ。

 その声の主は、帆月蒼空だった。

「どうかしたの?」

 俺は努めて冷静に返事をしながら、その実、鼓動が倍程に早まってゆくのを感じていた。昨日の今日である。無理もないことだった。

「今、帰りですか?」

「そうだけど……」

「私、一緒に帰ってもいいですか?」

「えっ……?」

 意外な申し出に、俺が言葉を詰まらせると――

「迷惑なら仕方ないのですが……」

 帆月は俯き加減に、そう言う。

「そうじゃなくて……迎えが来るんじゃ? 車で……朝、俺見てたし……」

 俺はみっともないと思うくらいに、狼狽えていた。

「ですから校門の所まで一緒に、と思ったのですが。ダメ……ですか?」

 十センチくらい低い位置からの、自然な上目使い。

「じゃあ、行こう……か」

 その眼差しを受けて、それを無下に断れる筈もなかった。

 俺たちは校舎を出てから校門までは、ほんの五十メートルくらい。これは「一緒に帰る」の範疇に入れていいものか、俺は少し悩んだ。きっと、一分もかかるまい。

 ここから見る限り、朝に帆月を乗せて来た車は見えない。せめて、車が到着するまでは一緒に待っていた方がいいのかな。俺はそんな風に、考えを巡らせる。

 しかし、不思議だ。何故、帆月は俺に声をかけてきたのか?

 朝は挨拶を交わしはしたが、別にそれ以降は話してはいない。だが、疑問に思うなら、やはり昨日の方か……。

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