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その恋を残して

第8章 ……ちゃった、ね


 だから、俺は思うのだ。

 今の彼女の姿こそが、本来の帆月怜未という一人の少女なんだ、と。

 不幸な事故なんかなければ、いつだってこの笑顔が、きっと……。

 怜未が、ポツリと言った。

「何事にも、あきらめは肝心だから……」

「え?」

「ううん、なんでも。ねえ、次――どこに行く?」

 午後三時を過ぎると、俺たちは映画館へ向かった。

 怜未が「これ、観てみたい」と指差した映画は、ハリウッドの大作でもこの夏に話題だったアニメでもなく、ちょっと地味そうな邦画。

 怜未と並んで席に座り、開演――。

「……」

「……」

 恋愛ものともコメディーとも分類し難いその映画に、俺たちはそれでも少しずつ引き込まれていった。

 物語が佳境を迎えようとした時に、どちらからともなく互いに手を握り合う。

 二人で、心地よく時間が流れる感覚を共有した。

 そして、ほどほどの感動を胸に残して、スクリーンにはエンドロールが流れてゆく――。

 その時、怜未は握っていた手に、キュッと僅かな力を込めて。

「……終わっちゃった、ね」

 そう言った怜未の瞳がスクリーンの光を映し、ゆらゆらと揺れた。

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