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その恋を残して

第1章 好きにならないで!


「お前さぁ、なんで立ってたの?」

 休み時間のこと。田口の問いに、俺はギクリとする。

「え……な、なんのこと?」

 とぼける俺を見て、田口はニヤリと笑った。

「帆月蒼空が、教室に入った時のことだよ。お前――席を立っていたろ?」

 くそ……一瞬だから、誰も気づいてないと思ったのに……。大体、コイツは前の席じゃん。後ろに目でもついているのか?

「別に……理由なんてないよ」

「うん。理由なんてないよな。つまりそれが、一目惚れっていうものだし」

「バ……バカ。そんなんじゃねえって!」

「まあまあ。あれだけの美少女なら、無理もないよ」

「だから、勝手に決めるな!」

「お前も普通の男だったとわかって、安心したぜ」

「違う……」

「えっ? 違うの? じゃあやっぱ、お前って男の方が――好きとか?」

「ちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうち――ガウチ!」

 あらぬ疑惑を晴らさんと必死だった。俺は念仏の如く否定を繰り返していた結果、イタリア的な名前を絶叫してしまう。

 図らずも教室内の注目を集めた上、寒々とした空気に晒された俺。むきになった自分を恥ずかしく思い、咳払いをして頭を冷やそうと試みた。

 確かに帆月蒼空を見た瞬間、電気が走ったような衝撃を受けている。だが、俺はそれを『一目惚れ』とは認めたくない。『美人=好き』なんて、単純な奴みたいでなんか嫌なのだ。

「見た目とか、関係ないし……」

 なによりも、俺を睨みつけた、あの眼差し。それを思い返して俺は旋律する。それほどに、あの時の帆月の眼力は、俺の中に強烈な印象を刻んでいた。

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