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その恋を残して

第5章 それは、おとぎ話だ


    ※    ※

「――松名ぁ! ちゃんと、聞いていたんだろうな?」

 俺は木崎先生のその声に、ハッとする。

 昨夜のことを考えている内に、もう授業は開始されていたようだ。

「えっと、なんでしたでしょうか?」

 とぼけた返事をした俺を見て、クラスの連中がドッと笑った。

「なんでしょうじゃないだろう。次、読めって言ってんの」

「あ、はい……えっと、どこを?」

「チッ――!」

 木崎先生は舌打ちをして、その顔をしかめている。

 申し訳ないです……。俺はせめて、先生の顔のしわが増えないことを切に願っていた。

 蒼空が俺を心配そうに見たので、大丈夫だと目線で合図を送る。そう、彼女に不安を与えてはいけない。俺は気を取り直すと、教科書を手に取りそれを読み始めた。

 誠二さんの話を、全て肯定したつもりはない。俺はやはり、蒼空の信じるていることを信じたいと思うのだ。だって、真実がどうあろうと、少なくとも蒼空は嘘なんて一つも言っていないのだから……。

 だけど、それでも現実を突きつけられたようなショックを、俺は打ち消すことができないでいる。それは、誠二さんが大人であるのに対して、俺がまだ子供ということなのであろうか。


 授業も終わり、その帰り道。蒼空は、今日の帰りも俺の横を歩いてくれている。学校からコンビニまでの僅かなこの時間を、きっと大事に思ってくれていた。

 蒼空は無自覚のままに、怜未の人格を自分の中に作り出し――そして、それを怜未の魂が、あたかも自分の中に宿ったと信じているのか――?

 そんな疑問のままに見つめた蒼空の姿は、とても脆く弱々しくもののように思えてしまう。

 いじらしく感じられ、俺は目頭が熱くなりそうになった。

「どうかしましたか?」

 蒼空が俺の方を向く。慌てて目を擦ると、誤魔化すように笑う。

「なんでもないんだ。寝不足のせいか、少し眠くて……」

「ダメですよ。夜更かしは」

 蒼空は怒ったような顔を見せた。

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