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その恋を残して

第6章 ここにいるよ

「イタタ……」

「……」

 痛みに顔を歪めたことに構うことなく、怜未は淡々と消毒液を浸した綿で、俺の顔をポンポンとおさえた。

 手当する手つきはテキパキはしているけど、優しさはあまり感じさせていない。

 怒っているのかな……? 黙って手だけ動かす怜未の顔を、俺はジッと見つめた。すると――

「なによ?」

 キッとした目つき睨まれ――

「あ、いや……別に」

 と、俺は慌てて目を閉じた。

 顔中がズキズキと痛む。かなり殴られていたから、当たり前だけど……。

 それにしても、怜未は今、なにを考えているのだろう。手当をしてくれることは大変ありがたいけど、そのツンとした態度にはハラハラさせられていた。

 もともと、俺と話す気はなかったはずだから、それも仕方ないのかもしれない。お節介を焼いてくれた田口には申し訳ない気分だったが、やはり俺の方から怜未にかける言葉が見つけられそうもなかった。

「ハイ――一応、おしまいね」

「ん……ありがと」

 左目の上と右の口元にガーゼを貼り付け、治療の方は完了したらしい。怜未は使用した消毒液等を棚に戻し始めた。

 と、不意にその手を止めると、俺に背を向けたまま言う。

「どうして?」

「え?」

「どうして、あの時に――怜未と言ったの?」

「あの時――?」

「『怜未に近づくな』――松名くん、そう叫んでたよ」

「ああ……そうだっけ」

 それは内田を殴りつけた瞬間に、夢中で発した言葉だった。改めて言われると、かなり恥ずかしい気分になる。

「あの場合は、蒼空――と、言うべき」

 徐に振り返った怜未は、怒ったように俺を見た。

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